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21、命を狙われました。


「浄化の魔法は、きっと魔力のある方なら、訓練次第で皆が使えるようになると思います。」 


 シルヴィは、セイネ川の水を少しずつ浄化しながら、そう言葉を続けた。


「魔法とは、つまるところ魔力をどのようにイメージし、形にするかで種類が変わるように思えます。ですから、浄化とはどのような魔法であるのか、イメージの共有ができれば、浄化の魔法は皆が使えるようになるかと。」


 シルヴィが触れているセイネ川の水が、触れた側からどんどんと綺麗になっていくのが見えた。


「どの程度の規模の魔法が使えるかは、その人の魔力の保有量で決まるかもしれません。」


「なるほど、つまりは、まず最初に魔力の有無が前提になるということですわね。」


 魔力の有無。そこから話が始まるのでは、カミーユはじめ、魔力のない大勢の人間が魔法を使うのは、やはり無理ということになる。


「でも、カミーユ様も神より託宣を受けられたとお伺いいたしました。気付かぬうちに、カミーユ様にも魔力が授けられていらっしゃるかもしれません!」


「うーん…?」


 今まで、自分で魔力を使おうと試してみたことはなかったので、シルヴィの力説は私にはまだピンと来ないものだった。


「よろしければ、まずはカミーユ様にも魔力があるかお試しになってから………。」


 そこまで言ったところで、シルヴィは突然言葉を切った。


「シルヴィ?」


「………。」


 シルヴィは無言で、セイネ川の対岸を見つめていた。

 その瞳は見開き、顔は青冷めている。


「危ない!!です!!!」


 突然シルヴィが、私の身体にのしかかってきた。


 ビュッ!と、何かが風を切る音が、私の耳にも届く。


 それは、矢だった。


 戦闘用ロングボウから放たれる、長く重く、鎧すら貫く威力を持った、強大な矢。


 万一女性が当たったりしたら、一発で命を落とすほどの威力を持った矢が、セイネ川の対岸から飛んできていた。


 矢は真っ直ぐにこちらに向かっていて、ちょうど私がいたところが狙われていた。


 今はシルヴィが庇ってくれているため、このまま行けば、矢はシルヴィの背中に突き刺さると分かった。


 腕でシルヴィを押し退けるのは間に合わない。


 シルヴィは私を助けようと、渾身の力で私に覆い被さっていた。


 だめだ、間に合わない。


 シルヴィが、死ぬ。


 それは一瞬のことだったけれど、私にはものすごく長い時間に感じられていた。


 曲がれ。


 逸れろ。


 私は、無意識に念じていた。


 矢が軌道を外れるように。


 身体が熱くなる。


 その瞬間に、空気が動いた。


 私の身体から、淡い光が溢れ、まるで矢は弾かれたように、不規則に動いた。


 軌道を外れた矢は、私達から離れた場所に、勢いを無くしてポトリと落ちた。


 息の詰まる瞬間。


 バクバクと、高鳴るシルヴィの心臓の音が伝わってきた。


「あ、あれ……?」


 いつまで待っても、覚悟していた衝撃が来ないことを不審に思って、シルヴィがようやく顔を上げた。


「だ、大丈夫…、だったの…?」


 かなり離れたところに落ちた矢を確認し、シルヴィはようやく身体の力を抜いた。


 矢の飛んできた方向に目を向けたけれども、すでに矢を射た犯人は逃げた後のようで、追いかけるのは難しかった。


 むしろ現状では、第2第3の矢が射られなかったことを喜ぶべきかもしれなかった。


「まさか、矢が射られるなんて…。」


 私は恐る恐る、落ちた矢に近づいた。矢尻が少し濡れて光っている。

 

 毒だ。


 私は本能的にそう感じた。


 急いで、持っていたショールに包み、素手では触らないようにして矢を回収する。


「何かの手がかりになると良いけど…。」


 私が命を狙われたことは明白だった。


 シルヴィが庇ってくれていなかったら、矢は確実に私の胸を貫いていただろう。


 一見ありふれた矢で、犯人の身元を割り出すのは無理にしても、襲われた証拠にはなりそうだった。


「それにしても、どうして急に矢が逸れたのかしら…?」


 確実に当たると思ったのに、矢はおかしな軌道を描いて、私達から離れたところへ落ちた。

 明らかに変な動きだった。


「恐らくですが、今、確かに魔力の波動を感じました。」


 シルヴィは立ち上がって、そう教えてくれた。


「魔力…?」


「はい。多分ですが、今、カミーユ様が魔力を使われたのではないかと…?」


「私が、ですか…?」


 言われてみれば、今確かに今まで感じたことのない不思議な感覚がしたような気がしていた。


「きっとそうです!カミーユ様の魔力が目覚められたのですよ!」

 

「私の、魔力が……。」


 シルヴィの言葉を聞きながら、私はまだ少し震える手と、ショールに包んだ矢を見つめていたのだった。



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