20、シルヴィとお話ししました。
ノブレス・オブリージュ
貴族の義務。
そう片付けてしまうには、私の行動はいささか行き過ぎているのだろうと思う。
だから、シャルマーニュ王太子も、シルヴィも、不思議に思うのだ。
私は何故、こんなにも一生懸命なのだろうか、と。
まだ起こるのか分からない脅威に対して、必死に自衛する姿は、いっそ滑稽ですらあるかもしれない。
私をこんなにも突き動かすものは何だろうかと、私はもう一度自問してみた。
助けられなかった記憶。
それは、前世での記憶だった。
前世で私の生きた国は、災害大国だった。
特に地震が多く、過去に起きた大震災の話を聞いて、私は小さい頃に、よく怯えたものだった。
そして、私が9歳の時、再び大きな災害が起こった。
崩れる街、全てを飲み込む大津波。海に消えてゆく人々。
私は、命からがら助かった。
けれど、私が知る沢山の人達は、助からなかった。
残された人も、奪われた家族の悲しみは言葉にできないものだった。
もしもあの時、私があの災害を予知できていれば、助けられた命もあったかもしれない。
死ななくて済んだ人も、悲しまなくて済んだ人もいたかもしれない。
もちろんできるわけはなかったことだけれど、私は日々続く震災のニュースを聞きながら、避難所の中で、よくそんなことを考えていた。
結局私は、その9年後に、流行病で死んでしまったけれど、その時の気持ちは強烈に胸に焼き付いていた。
だからこそ、今こうして生まれ変わって、これから起こる厄災を予知できている今、私はそれを回避して、人々を助けることに全力を注ぎたいと思うのだ。
そんなことをしても、あの時助けられなかった人達を助けられるわけではないのは分かっている。
でも、今目の前にいる人は助けることができる。
そうすることによって、きっと一番助かるのは、あの時に打ちのめされた私の心なのだろう。
「私が皆を助けようとするのは、そうすることで、私の心が助かるからです。」
セイネ川を眺めながら、私はシルヴィにそう答えた。
「まあ……。」
「誰のためでもない、私のために、私は皆を助けたいのです。それでも、シルヴィは私に協力してくれますか?」
「それは、ええ、もちろんです!」
私の答えを聞いて、シルヴィは嬉しそうに笑ってくれた。
「私も、自分のためです。私が頑張ると、カミーユ様が笑ってくださるのが嬉しいので、私はカミーユ様のために頑張ります。」
そう言うと、シルヴィはしゃがんで、セイネ川の水を両手で掬った。
シルヴィの両手が光り、川の水がスッと綺麗に浄化されたのが分かる。
「今はこうして、一度に少しの水しか浄化できませんが、この力をもっと磨いて、一度にたくさんの水を浄化できるように頑張ります!」
「ありがとう、頼もしいわ、シルヴィ。」
シルヴィの素直な心には、本当に救われるのを感じた。
「ねえシルヴィ、あなたの浄化の力は、どうしてできるようになったの?他の人にも、教えればできるようになるのかしら?」
「そうですね…。」
魔力とは何か。今私が一番気になっているのは、その部分だった。
「私が、突然魔法を使えるようになったのは、半年前です。」
「そうだったんですね。」
「家の近くで、羊の世話をしていた時、突然空に何かが見えて…。」
「何か、ですか?」
それは初めて聞く、聖女誕生の瞬間だった。
「眩しい、何かでした。6枚の羽のような、顔のような…。それは天使様かもしれないと、後で言われました。」
シルヴィは、思い出しながら、ゆっくりと話し続けた。
「あと、風の音です。不思議な音…、よく聞くと言葉のようでもありましたが、よく分かりませんでした。」
きっとそれが、本物の神の託宣なのだろう。私は不思議な気持ちで、シルヴィの言葉を聞いていた。
「それから、私は他の人の怪我を治せる、不思議な力を授かったのです。」
シルヴィが手をかざすと、私の腕にあった小さな掻き傷が、あっという間に癒えていった。
「私は、周りの人達の怪我を治して回りました。そしてある日、その話を聞いた聖堂の方が迎えに来てくださって、聖堂に行き、テオドール大司教の目のご病気を治すことになったんです。」
「そうでしたの…。」
「無事にテオドール大司教は目が治り、私はその功績をもって、聖女と認定されました。」
初めて聞く、聖女誕生の経緯は、とても興味深いものだった。
「だから、私のこの力は、神から与えられたものなのです。聖堂では魔力と呼んでいますが、聖も魔も、元は同じようなものという認識なのかもしれないですね。」
「その力は、私にも使えるでしょうか…?」
私は、シルヴィとの話に夢中になっていた。
だから、気がつかなかった。
対岸から、私を狙う不穏な影が、草影に潜んでいたのだったという事実に。




