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19、シルヴィとデートします。

 

 シャルマーニュ王太子はこの後も公務が立て込んでいるようだったので、私はひとまず今後の方針だけを話して、今日は別れることにした。


 先ほど回復を待って寝ている時に問い詰められてから、どうにも気まずくて、あまり話ができなかったのは申し訳ないと思う。


 私はシャルマーニュ王太子への距離感を取りあぐねていた。


 それはともかく、今日はまだ聖女シルヴィとピエール司祭は時間を作ってくれているので、私はシルヴィと一緒に浄化の力について、もう少しきちんと把握しようと思った。


「ピエール司祭、浄化の力は、聖女が顕現するまでは、聖堂でも使える者は他にいなかったのでしょうか?」


「古い文献を探したところ、百年くらい前には、似たような力を使った記録がありました。いわゆる、水を綺麗にする魔法です。けれどその後には見られず、近年では聖女様から話を伺うまでは、誰も浄化の魔法を使う者はおりませんでした。」


「そうなのですね。」


聖女から話を聞くまでは、ということは、私が聖女に手紙を出して、浄化の魔法を使えるようになって欲しいとお願いしたのが発端と考えて良かった。


「何故浄化の魔法は使われていなかったのでしょう?」


「聖堂は、飲み水等をセイネ川に頼らず、清浄な地下水を利用しています。おそらく必要ないため、使う者がいなくなったのかと。」


 言われてみれば、このフランセイズの山から流れている伏流水は、地下水として、土地を持つ人は井戸を掘り利用していた。


「セイネ川の水を浄化するのと平行して、地下水を帝都プリエに引き、公共の井戸を各広場等に作るのも良いですわね。」


 清浄な水は豊富にあるにこした事はない。


 やりたい事は沢山ある。

 でも全てをこなそうと思ったら、とても3年足らずの時間でできることではなかった。


 もしも私が死んだら、私の志しを継いでくれる人がいなくてはいけない。


 誰であったなら、私のやろうとしていることを引き継いでくれるのか。


 私の目の前に立ってくれているのは、聖女シルヴィだった。


「シルヴィ、私、今この国のためにやりたいと思っていること、全てを書いて残しますわ。」


「はい。」


 シルヴィは、キラキラとした瞳でこちらを見ていた。

 ある意味、彼女以上に思いを託すのに適した人はいないだろう。


「もしも私が志し半ばに倒れたとしたら、この街の、この国の美化と、疫病の防止を、どうかあなたにお願いしたいの、よろしいかしら?」


「え?」


 私の言葉に、シルヴィはその愛らしい瞳を、更に大きく広げた。


「志し半ばだなんて、そんな縁起でもないことおっしゃらないでくださいっ…!」


 その様子に、シルヴィは私が数年後に死ぬ予定であることを知らなかったのだと、改めて分かる。

 司教と国王には伝えたので、シルヴィの耳にも届いているかと思っていたけれど、まだ聞いてはいないようだった。


「そうねえ…。」


 私はシルヴィに伝えようか、少し悩んだ。あまり自分が死ぬと言われたなどと、色々な人にペラペラしゃべるのは気が引けたのだ。


「まあ、もしもの時と思っていて。私が後を託せるのは、あなたしかいないの。」


「う……、はい…。」


 シルヴィは、渋々といった様子ではあったけれど、ひとまず頷いてくれた。


「ねえ、ランデヴーしましょうか?」


 納得の行かない顔をしているシルヴィを、私は思い切ってデートに誘った。


「ラ、ランデヴーですか!?」


 私の突然の誘いに、シルヴィは赤くなった。


「セイネ川の河岸をプロムナードしましょう。」


 川岸を散歩、その言葉で、シルヴィは私の意図をすぐに理解してくれた。


「はい、ぜひご一緒させてください!」


 シルヴィは本当に素直に、真っ直ぐに可愛い返事をくれた。



 セイネ川は、フランセイズ王国の北西に渡り、中央を通って海へ注ぐ、長大で素晴らしい河川である。


 プリエの歴史は、セイネ川の中洲にある島から生まれており、フランセイズ王国自体がセイネ川から生まれたと言っても過言ではない。 


 そんなセイネ川が、深刻な水質汚染に苦しめられているのは、本当に悲しいことだし、何より命の危機に直結していた。


 水が汚いとは言え、光を映す川面と、その向こうに見えるプリエの街並みは、ものすごく美しい。


 私はシルヴィと二人でセイネ川の河岸を歩きながら、どうすればこの美しいプリエの街を守れるだろうかと考えていた。


「カミーユ様は、どうしてそんなに国民のために一生懸命になれるのですか?」


 川岸を歩きながら、シルヴィは王太子と同じようなことを聞いてきた。


「そうね、どうしてかしら…?」


セイネ川から吹く風は、それでも心地よく、私はいつもよりも素直な気持ちでシルヴィと話ができそうな気がしていた。



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