18、聖堂について教えて貰いました。
サン・ソーヴル大聖堂の中央にある中庭を巡る、ロマネスク調の大回廊を歩くと、その先に処置室として使われている部屋があった。
解毒や回復が必要と判断された患者が来た時に、そこで処置をするための部屋である。
部屋は、白で統一された簡素な作りで、余計な装飾などは置かれていなかった。
そこそこの広さはあるものの、大抵一度に一人~三人くらいの治療を想定しているようで、一度にたくさんの人が来たら、対応は別の場所でしないといけないだろうと予想された。
「もしも患者がたくさん出た時は、どのように対応していらっしゃいますか?」
「その場合は、各修道院などを開放し、そこで治療をするか、患者の自宅に往診する形になります。」
「なるほど。」
ルーアン司教の代わりに聖堂の案内をしてくれている、ピエール司祭は、ハキハキと答えてくれた。
「今現在、多数の患者を見ている施設はありますか?」
「郊外にある、モレー修道院などでは、完治が困難な患者の、静養の地として使われています。」
「なるほど、ホスピタルのようになっているのですね。」
私はピエール司祭の言葉の一つ一つを頭に叩き込んだ。
「聖堂の魔法をもってしても、完治できない患者は、たくさんいるのですか?」
「ご自身の体力が著しく落ちている方は、いくら魔法を使っても治らないことがあります。後、魔法の効かない病気も、一定数あります。」
「魔法は万能ではない、ということですね。」
「残念ながら。」
会話をしながら、私達は聖堂の処置室へと入った。
「今聖堂で、浄化の魔法が使える方は、何人いらっしゃいますか?」
「3人です。聖女様と、ルーアン司教様と、あと、不詳、私ピエール司祭でございます。」
「あなたもお使いになれますのね。」
私は改めて、ピエール司祭を見た。まだ若そうに見えるのに、かなり優秀な司祭なのだろう。
「聖堂に、回復や解毒を使える方は、何人くらいいらっしゃいますの?」
「30人ほどでしょうか?」
「けっこう沢山いらっしゃるんですね。内訳をお伺いしてもよろしいでしょうか?」
「はい、まずはテオドール大司教様。この方は、ご高齢につき、実務からは離れていらっしゃいます。」
「まあ。」
テオドール大司教。確かに名前は聞いたことがあったけれど、ここしばらく表には出ていないはずだった。
もしかしたら、彼が何かしら知っている可能性もある。
「そして、ルーアン司教様、司祭が4人、助祭に6人、副助祭に8人、修道士、修道女に10人、聖女様お1人でございます。」
「なるほど。」
内訳を聞きながら、聖堂の中の、初めて聞く階位が興味深くもあった。
「一般の人が、何らかの過程を経て、回復や解毒の魔法を使うことは可能ですか?」
「まずは聖別し、叙階を受け、修行を受けること、あとは本人に元々魔力の素養があることが必要です。半俗のまま魔法のみを行使したいのであれば、侍祭になり、普段は世俗に暮らし、必要な時のみ聖堂に来る形でも大丈夫かと思います。」
「聖別は、必ずしなくてはいけないのでしょうか?」
「聖別をせずに魔力だけを乱用すると、堕聖し、悪魔に魅入られる可能性があります。そのため、聖別されていない者が魔力を使うことは、国で禁じられております。」
「なるほど。では特別に聖別すれば、半俗のまま魔法を使える人を増やすことも可能なのですね。」
30人という人数は、思っていたよりも多かったけれど、今後魔法を使える人を増やせたなら、それにこしたことはなかった。
「では、浄化の魔法について見せていただいてもよろしいでしょうか?」
「かしこまりました。」
私の言葉で、テーブルの上にいくつかのコップが並べられた。
中には、薄灰色に濁った水が入っている。
プリエ市民が飲料水としても使っている、セイネ川の水である。
ハッキリ言って汚い。1970年代の多摩川の水のようである。
こんな水をそのまま飲んで生活している人が大半だなんて、それだけでも、今すぐ改善が必要だった。
「では、浄化いたします。」
そのコップに向かって、ピエール司祭と聖女シルヴィが、それぞれ手をかざした。
二人の手から、淡い水色の光が差し、コップの中の水が、みるみるうちに透明に変わっていった。
「おおっ…!」
数秒も経たないうちに、コップの水は、透明で美しい清浄な水へと生まれ変わった。
「素晴らしいです!こんなに綺麗になるなんてっ…!」
想像以上の変化に、私は嬉しくなった。
「この技を、沢山できる人が増えたなら、水質浄化計画もだいぶスムーズにいくのですが…。」
「市民皆が使えるようになるのは無理だと思いますが、以前は守門という役職がありました。聖別をし、守門になり、浄化を専門にする聖職者を増やすことは可能かもしれません。」
「本当ですか!?」
ピエール司祭の提案に、私は目を輝かせた。
「資質のある者だけを集めて、特別に修行を行えば、半年程で、水を浄化する程度の力は習得できるかと思われます。…未知の病気に対応できるかまではわかりませんが。」
「水を浄化できる人が増えるだけでも、大きな戦力です。早速国王様にお話し、実現を目指しましょう。」
ピエール司祭の協力も得て、私は浄化の力も使った浄水場の建設計画に、また一歩近づいたのだった。




