17、回復を使って貰いました。
何故私が自分の死亡フラグ回避よりも、国民全体の死亡フラグ回避を優先しようとしているのか。
国王には、単純に数の問題だと説明していたけれど、本心は違う。
本心を言えば、私は生き残りたいと思っていないのだ。
これまでずっと、王太子妃になるための教育を受けて育ってきた。
それなのに突然、前世とやらの記憶を思い出して、王太子は聖女と恋に落ちて、結婚するのだと分かってしまった。
例え頑張って努力をして、無事に火刑から逃れられたとしても、ずっと結婚すると思っていた相手が、他の女性と結婚した後の世界で、どうして幸せになれるのか、私にはまったく想像が付かなかった。
はっきり言えば、王太子と聖女が結ばれる未来を見せられた瞬間に、私は生きる意味を見失ってしまったのである。
いっそ3年後を待たず、今すぐ死んでしまっても良い。
そのぐらい自暴自棄な気持ちになっていた。
私がすぐに死のうとしなかったのは、私の死後に流行る疫病の情報も、同時に知ることになったからだった。
前世の記憶のある今の私なら、疫病を防ぐ方法が分かる。
分かっておきながら、何もせずに先に死ぬのは、私が何十万もの人を見殺しにする…、むしろ、私が直接国民を殺すようなものだと思った。
殺されるのは嫌だけれど、罪もない人々を殺すのはもっと嫌だった。
それに、私が死ぬ前に、少しでも多くの疫病対策をしておけば、私がいざ死ぬ時に、私の死を悼んでくれる人も増えるかもしれない。
どうせ死ぬのであれば、生きているうちの私の命が、少しでも誰かにとって価値あるものになったら嬉しい。
私が疫病対策に夢中になるのは、そんな自分勝手なだけの理由が全てだった。
「ふう……。」
改めて考えると、気分が落ち込んだ。
こうして私が感染症対策にばかり時間を使っている間にも、シャルマーニュ王太子と聖女シルヴィは仲を深めているかもしれない。
そう考えても、胸に沸き上がるのは嫉妬ではない。
ただ、虚無感だけだ。
私は多分、シャルマーニュ王太子を愛していたわけではなく、
ただ、生きる意味を見失ってしまっただけなのだ。
だから、他に生きる意味を見つけたくて、こんなにも必死に感染症対策をしようとしている。
何かを考えている間は、余計なことを考えなくて済むから。
「はあ………。」
嫌な考えをため息と一緒に吐き出して、私はベッドから起き上がった。
回復の魔法のおかげで、身体の不調は完全に良くなっていた。
「やはり魔法はすごいわ。」
私は手を何度か動かして、体調が戻ったことを確認すると、改めて身支度を整えた。
私の不調のせいで、わざわざ時間を作ってくれた、王太子も聖女も司教も、皆を待たせてしまった。
私は改めて聖堂のことを教えて貰うために、休憩室を出たのだった。
「このたびは、ご迷惑をお掛けして、本当に申し訳ありませんでした。」
私は謝ってから、改めて聖堂と、この街の教会の仕組みについて教えて貰うことにした。
「いえいえ、こちらこそ、司教は今休んでおりますので、私が代理で申し訳ありません。」
司教は先ほどの回復の魔法で、相当疲れてしまったらしく、聖堂の案内には、その下の司祭が代わりに行ってくれるようだった。
「ルーアン司教様には、ご無理をさせてしまい申し訳ありませんでした。」
私はもう一度謝罪をした。一度の回復の魔法でこれだけ消耗してしまうなら、やはり実用化は難しいかもしれない、と不安になる。
「でも、カミーユ様がお元気になられて、本当に良かったです。」
後ろに控えていたシルヴィが、控えめにそう言った。
「元気になったのは良いが、もうあまり無理はしない方が良い。」
私が元気になるのを待ってくれていた、シャルマーニュ王太子は、少し不満そうだった。
二人共、決して暇ではないはずなのに、こうして律儀に私の回復を待ってくれていたのだった。
「はい、王太子殿下にも、聖女様にも、お待ちいただき、本当に申し訳ありませんでした。」
「聖女様なんて…、どうかシルヴィとお呼びになってください!」
「では、シルヴィ様?」
「シルヴィ様だなんて、いっそ犬と呼んでくださっても良いくらいですのに…。」
「犬、ですか…?」
「いえ、なんでもございません…。」
つい口が滑ったのか、恥ずかしそうに俯くシルヴィに、私は聞き間違いだろうかと不思議な気持ちになりながらも、ひとまず聞き流すことにした。
「では、シルヴィ、と、そう呼んでもよろしいですか?」
「はい、ぜひそう呼んでください!」
嬉しそうにそう答えたシルヴィに、私も嬉しくなった。
こうして私は、シャルマーニュ王太子と聖女シルヴィと一緒に、サン・ソーヴル大聖堂を回ることから始めたのだった。




