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16、王太子に問い詰められました。


 サン・ソーヴル大聖堂に着いた私は、結局自分がまず最初に回復の魔法を、ルーアン司教に掛けて貰うことになった。


 ただ自分の不調を治して貰いに来ただけのようにも思われて、気恥ずかしかったけれど、これも実地体験できたのだと考えれば、むしろラッキーなのかもしれないと思った。


 聖堂に用意された休憩室で、ルーアン司教の回復魔法を受ける。

 司教は何事か、魔法の呪文を唱えると、両手を私の身体にかざした。


 司教の両手が光り、私は身体の中からポカポカと温かくなる感覚がした。

 しばらくその光を受けていると、私の身体の疲れがどんどん抜けていくのが分かる。


 光を受けている間は、気持ちだけは今すぐ走り出せそうな気分になったけれど、終わると急激な眠気に襲われて、とてもすぐに動こうという気にはなれなかった。


 回復の魔法を終えたルーアン司教は、かなり疲れた表情で、マジックポーションを飲んで、自身の魔力を回復させていた。


 どうやら、人を一人回復させるだけでも、かなりの気力も体力も消耗するらしい。

 こうして見ると、一人の神官で、多くの人を回復させるのは、とても無理だということが良く分かった。


 回復後は眠気があったけれど、本当に眠るわけではなく、一時間ほど横になっていれば、すっかり回復するらしい。


 聖堂との話し合いについては、私の回復を待って行うことになり、私はひとまず休憩室で横になったまま、回復をじっと待つことにした。


「具合はどうだ?」


 しばらくすると、私の体調を気にしたシャルマーニュ王太子が、休憩室を訪ねてきた。


「シャルマーニュ王太子殿下、このたびはご迷惑をお掛けして……。」


 私は慌てて簡易ベッドから起き上がろうとした。


「ああ、どうかそのままで、寝ていてくれ。」


 王太子は、起きようとする私を押し留めた。


「しかし…。」


「寝てくれたままの方が良い。」


 王太子はそう言うと、ベッドの脇の椅子に腰かけた。


「あなたはどうして、そんなにも無理をされるのだ?」


「え……?」


 シャルマーニュ王太子は、真剣な瞳で、私の顔をじっと見つめていた。


「そんな…、さほどの無理をしているというほどでもございません。」


「いいや、充分に無理をしている。それが無理でないなら、この世に無理をしている人間などいなくなるだろう。」


 王太子の声は不満そうだった。


 確かに言われてみれば、何日もまともに寝なかったり、自分を不完全な薬の実験台にしたり、なかなかの無茶はしていたかもしれないと思う。


「申し訳ございません…。」


「謝るのではない、何故そんなに無理をされるのか、と聞いているのだ。」


「それは…。」


 私は返事に困った。


 私には時間がない。

 それが、時間を惜しんで、私が無理をしてでも事を急いでいる理由だった。


 そのことに関して、どの程度王太子に話していただろうかと考える。


「知っている。あなたは死ぬと、神から啓示を受けたのだろう。」


「王太子殿下っ…!?」


 まさか知られているとは思わず、私は一瞬慌てた。

 けれどよく考えれば、国王夫妻に伝えたことを王太子が知っていても、何の不思議もなかった。


「あなたは2年半後に火刑になると、それゆえに、私との婚約も辞退したいのだと、両親と話していたのを、私は部屋の外で聞き耳を立てていたのだ。」


「あの時っ…!」


 以前王宮のパーティーで、国王夫妻と話していた時、まさか王太子が扉の外にいたとは驚きだった。


「父も母も、私には何も言っていない。けれどあなたとの婚約式の準備をしようとしない様子を見て、おかしいと思っていたんだ。」


「それは……。」


「何故だ?何故、自分が死ぬなどと言われたのに、死を回避するための努力をしないのだ?何故、死ぬまでの時間を精一杯使って、人々のために尽くそうなどと、そんな思考回路になるのだ?何故、自分の命に執着しないのだ!?」


「…………。」


 シャルマーニュ王太子に詰め寄られて、私は返事に窮した。


「……すまない、疲れているあなたを、問い詰めるようなことをした……。」


 返事に困っている私を見て、シャルマーニュ王太子は申し訳なさそうに項垂れると、席を立った。


「どうか、今はゆっくり身体を休めて欲しい。興奮して申し訳ない。」


 王太子は、自分がいると私が休めないと気付いたようで、部屋を出ようと、扉に向かって歩いて行った。


「でも、どうか覚えていて欲しい。私は、あなたに生き続けて欲しいと思っているのだということを……。」


 それだけを言い残すと、シャルマーニュ王太子は部屋を後にした。


 後に残された私は、呆然とその言葉の意味を考えていた。 


 何故、自分の命よりも先に、国民の命を助けることばかりを考えるのか。


 その理由は、自分では最初から分かっていた。


 けれどまさか、それをシャルマーニュ王太子に問い詰められる日が来るなんて、まったく想像の外にある出来事であったのだった。



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