14、青カビの研究もします。
「カミーユ令嬢の計画は分かった。素晴らしく壮大な計画だ。」
シャルマーニュ王太子は、重い口を開いた。
「私としては、ぜひしてみたいという気持ちはある、だが、私の一存で決めるには、重大過ぎる。一度持ちかえってから、検討したい。」
「ありがとうございます。」
今日はまず、持ち帰って考えて貰えるという言葉を貰えただけでも収穫だった。
「ちなみに浄水場のシステムですが、濾過と煮沸を考えておりますが、そこでも聖堂の持つ浄化の力をお借りできればと思っております。」
「あ、はい。」
私はあらかじめ聖女シルヴィに、浄化の力の習得を手紙でお願いしていた。
「疫病の浄化のため、とお伺いしていましたが、その練習として、まずは泥水から浄化の練習を指示されていたのは、そういうわけだったのですね。」
シルヴィ令嬢は、すっかり感心した顔でそう言った。
「はい、練習にもなりますし、そのまま実践に使えると考えたのです。」
「おかげさまで、頑張れば結構な量の水を、短時間で浄化できるようになってきました。」
「それは素晴らしいです。」
ほとんど手紙のみのやり取りしかできていなかったけれど、早い段階で聖女が浄化の力に目覚めてくれたのは、大き戦力だった。
「今、聖堂に、聖女様以外に浄化の力を使える方はいらっしゃいますか?」
「聖堂の皆で努力したところ、司教様もだんだんと浄化の力を使えるようになってまいりました。このまま練習を続ければ、使える人数は更に増えてくると思います。」
「それは、本当に頼もしいです。」
小説においては、聖女が浄化の力に目覚めたのは、疫病が発生した後だったけれど、こうして無事に前もって浄化の力を顕現できたのは大きかった。
「ちなみにそれは、一般人でも努力すれば身につく力でしょうか?」
「相当難しいとは思いますが、絶対に無理というわけでもないかとは思います。」
「それは心強いです。」
そう、私の狙いの第二段は、聖堂の持つ浄化の力だった。
小説においては、聖女だけが使うことのできた浄化の力であったけれど、もしもこの力を他にも使える人が増えたなら、これ以上の武器はないだろう。
「シルヴィ様、今度またご一緒に聖堂にお伺いして、浄化の様子を拝見することはできますでしょうか?」
「もちろんです、ぜひいらしてください!」
「ありがとう、ぜひ伺わせていただきますわ。」
「それは、私も同席しても構わないかな?」
シャルマーニュ王太子の申し出に、私は快く答える。
「もちろんですわ。聖堂さえ良ければ、ぜひご一緒いたしましょう。」
「聖堂が嫌と言うことはありません。殿下のお越しも、カミーユ様のお越しも、等しく光栄でございます。」
聖女シルヴィは嬉しそうに答えた。
王太子様も聖女様も、本当に協力的にしてくれて、この上なくありがたいと思う。
清掃、石鹸、水の問題の道筋が見えたなら、次の課題は医療がある。
やらなければいけない問題は山積していた。
私が小説通り18歳で火刑にされるとしたら、残された時間は、あとたったの2年と8ヶ月。
カウントダウンは始まっている。
3年後の疫病発生を食い止めるために、今何が必要で、どう進めるのが一番良いのか。
時間がない中、全てを同時進行で進めていかなくては、きっと間に合わないだろう。
ひとまず今日の会合では、一定の成果は挙げられた。
今後は国王の判断を待たなくては、動けない部分もある。
国王の返事を待つ間にも、できることは進めておかなくてはならない。
私は、シャルマーニュ王太子と、聖女シルヴィと、次回の約束をすると、ひとまず今日は家に帰ることにした。
時間がない。
その思いは、常に私を追い立てていた。
聖堂訪問の予定は、三日後だった。それまでの時間に、できることはやっておかなくてはならない。
公爵邸に帰った私は、以前に雇っていた研究者チームを呼んだ。
やはりどうにか自分の手で、抗生物質を作れないかと考えていたのだ。
「どうですか?青カビの培養は上手く行っていますか?」
私は研究チームのリーダーである、バジル博士にそう尋ねた。
やはり、抗生物質と言えば青カビ。私にあるのはその程度の知識のみだった。
「しかし、青カビなど培養して、本当に薬が作れるのでしょうか?」
バジル博士は、フランセイズ王国における、薬学研究の第一人者だった。
それでも、抗生物質に対する知識はゼロである。
「外国において、青カビから取れる成分が、細菌に…ひどい病気によく効くという話を聞いたのです。まずは培養し、その成分を抽出していただけたらと思います。」
「かしこまりました。」
無事にペニシリンが抽出されたとして、今度はそれをなるべく安全な薬として、実用化できるように研究を続けなければならない。
考えなくてはならないことは山のようにあった。
私は寝る間も惜しんで、今後の計画に知恵を絞り続けたのだった。




