13、浄水場計画をプレゼンしました。
私は机に広げたフランセイズ王国の地図を指差した。
「オーリィ地区、ここに浄水場を作ります。」
私の指差したそこは、王都プリエの少し南側、セイネ川の上流に当たる地域だった。
「ここで、セイネ川上流の、ちょうどエソンネス川と合流したばかりの水を採水し、浄化して、上水とします。」
次に私は、帝都プリエの西、セイネ川の下流付近を指差した。
「次に、バタイル地区、ここにも浄水場を作ります。」
バタイル地区は、ヴェルサイス宮殿の更に西に位置する、水の豊富な地区だった。
「ここは下水処理専門の浄水場です。セイネ下流の水、また、各家庭から出た排水を集めます。そして綺麗になった水を、ユール川へ流し、ユール川はやがて本流のセイネ川へ合流し、海へ注ぎます。」
私は川の流れを追って指差し、海への排水の流れを説明した。
「上下水道が整備されるまでの間は、これまで通り、糞尿の処理は、オルレアンで引き受け、堆肥に変えさせていただきます。」
一端言葉を切っても、王太子も聖女も、しばらく黙っていた。想像以上の規模に、言葉を失っているようだった。
「しかし、この規模の工事となると、どれだけの金額と時間がかかるか…、確実に国庫を使わねばなるまい。」
「私には想像もつきません…。」
当然のように、王太子も聖女も難色を示した。それだけ、法外な計画だということは、私にもわかっていた。
「戦争をせず、新たな宮殿を建てず、宮殿の噴水のための治水をやめ、毎晩のように行う宴会と、贅沢なドレスの作製を我慢すれば、捻出できない金額だとは思いません。」
「しかし……。」
私の話すのは理想論だった。実際に、プリエ市民の治水のために、などという理由で自粛を要請したら、貴族達からの反発は容易に想像できる。
「そこで、聖堂の出番です。」
「私達の、ですか?」
「はい。人力でできないところには、もはや魔法の力を借りるしかありません。」
「しかし、聖堂で使えるのは、解毒と回復、そして浄化の魔法くらいです。」
「他にもう1つ、禁断の魔法があると聞きました。」
「もしかして…。」
聖女シルヴィ令嬢は、固唾を飲んだ。
「そう、生命の、魔法です。」
様々な文献を調べているうちに、見つけた一文。
聖堂は過去に、『生命』の魔法を使っていたことがある、と。
「けれどそれは、禁じられた魔法であると、伺っております。」
「そうですね、使い方を誤ると、危険です。」
生命の魔法、それは、土人形や岩や鉄に命を吹き込む魔法。つまりはゴーレム作りの魔法である。
ゴーレム作りには制約があり、朝8時00分から夜18時00分の時間を過ぎても働かせると、暴走する、というものである。
作り方は簡単で、土人形を作り、その胸に『真理』を意味する『emeth』の文字を刻み、魔力を込めるだけで良いとされる。
「生命の魔法が禁じられた理由は、作ったゴーレムが暴走し、街を破壊したからですよね?」
「はい、恐ろしい事故があったと聞いています。」
カバラの悲劇と呼ばれる事件が、この国には語り継がれていた。
夜遅くまで働かされたゴーレム達が暴走し、小さな街を1つ、一夜のうちに破壊したのだ。
その事件以来、人形のゴーレムを作ることはもちろん、生命の魔法自体が国により禁じられていた。
「今回は、特例として、一部生命の魔法を使うお許しをいただきたいと思っております。」
「しかし…。」
「そして、作るものは、土人形ではありません。鎧です。」
「鎧?」
「はい。作業員が装着し、作業効率を大幅に上げる、パワースーツを作るのです。」
「パワースーツ…?」
私の頭の中にあるのは、前世で一部の介護や物流の現場で使用されていたという、パワーアシストスーツという、機械で作られた装着型強化マシンのゴーレム版だった。
「ゴーレムで鎧を作り、作業員に装着させます。作業員がそれを着て作業をするのは、朝9時00分~17時00分の間と定め、それ以外の時間は働くのを禁じます。これで、ゴーレムの暴走は止めることができます。」
「ふむ。」
「また、強化スーツは上半身から腰までの部分とし、足には補助のみとします。万一暴走したとしても、ゴーレム単体での機動力を持たせなければ、移動して破壊行為をすることはありません。」
私は、別紙に用意しておいた、強化スーツ型ゴーレムの設計図を机に広げると、説明を続けた。
「また、万が一人が装着したままゴーレムが暴走したら、この胸にあるemethの頭文字のeを消せば、ゴーレムはmeth(死)となり、元の土塊に戻ります。」
「なるほど。」
「これにより、装着者、及び周りの者が、ゴーレムの暴走を止めることができます。以上の安全対策の徹底を条件に、強化スーツ用ゴーレム作製に限り、生命の魔法の使用許可を、王室よりいただけましたらと思います。」
私は以上のプレゼンを終え、シャルマーニュ王太子の返事を待った。
我ながら、なかなかの無茶を言っている自覚はあった。
けれどまた、実現できれば、必ず成功させる自信もある計画でもあったのだった。




