表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
とびら  作者: 久乃☆
5/16

第四話 デート(1)

 二人の待ち合わせの場所は、お互いが住むマンションの近くの居酒屋と決まっていた。


 会社の近くだと、飲んでから電車に乗るのが辛いというのがお互いの意見だった。


 したたかに飲んでも、歩いて帰れる距離にいれば、気持ちの上でも大分違うものだ。


 その日も同じ様に、いつもの居酒屋のテーブル席で真央は敦の来るのをじっと待っていた。


 約束の時間を二十分程越えたところで、敦の姿が現れ、両手を合わせながら真央に近づいてきた。




「ごめん、終わりがけに電話が掛かってきちゃって」




 薄手のコートを脱ぎながら、遅れた訳を説明する。




「いいのよ。仕事なんだから、ただね……」




 真央が俯く。




「分かってるよ」




 ため息混じりに敦が首を項垂れる。


 すると真央が嬉しそうに、満面の笑みを浮かべながら「ご馳走様!」と言うのだ。


 これがいつの間にか出来上がった、二人のルールだ。


 係長という立場の為なのか、営業という仕事柄なのか、どうしても遅刻するのは敦の方が多くなる。


 最初の頃は、申し訳なさそうに弁解をする敦に首を左右に振り、優しい笑顔をかけてくれていたのだが、それも度重なって今のルールが出来上がったのだった。


 しかし、普通に考えれば恋愛中に女性を待たせる方が悪いのだし、デート代を男の敦が出すことはなんとも思ってはいないのが本音なのだが。


 真央の基本は、男女は平等なのだから、デート代も平等で良いのだと思っているらしい。


 そこもまた、敦が好むところなのだ。


 店員が注文を取りに来て、適当につまみをチョイスする。


 生ビールを片手に持ち、宙でジョッキを合わせる。


 割れない程度にあわせたジョッキからは涼しげな音が響く。


 二人の唇にジョッキが持っていかれると、その日の疲れを一挙に流すべく胃へとアルコールを染み込ませる。


 同じタイミングでジョッキを口から離し、大きく息を吐く。


 その吐く息は『このいっぱいが止められません!』と嬉しそうに宣言しているように聞こえる。




「それにしても、昨日のエスカレーターの事故、凄かったよね」




 皿に盛られた枝豆を摘まみながらエスカレーター事故の話を振ってきた。


 あの事故以来、エスカレーターに乗ることが躊躇われてならない。


 まさか、同じことが起こるはずは無いのだが、つい足が震えるのだ。




「それほどショッキングだったってことね」


「ああ、あれは地獄絵図って感じだったよ」


「敦を追い越したオジサンがいなかったら、敦がその中にいたんだものね」


「うん、だからかな。余計に怖さを感じるよ」




 今思い出しても、じわっと汗が出てくるのが分かる。




「でも、そのおかげで客先での話題には、事欠かないでしょ」




 確かに図星だ。


 思い出したくない程恐怖を感じたというのに、客先へ行き相手が話しを振ってくれば、応えざるを得ない。


 更には会話が詰まったときや、間が持たない時などは、かなりのアイテムとなるのだ。




「それはそうと、又あの夢を見てね」


「あの夢?」


「この間、話ただろ」


「……あぁ、扉の夢」




 ビールのお替りを注文すると、敦に顔を向け小さく頷いて見せた。




「その夢がどうかしたの?」


「あの夢を見た日に、エスカレーター事故があったんだ」


「そういうこと……」




 今まで夢占いなどの類を信じたことは無く、もちろん夢で何かが分かるなどとは毛頭思ってもいない。


 しかし、今回の夢は何かあるのではないかと思わずにはいられなくなるほど、夢を見ると悪い事が起こるのだ。




「考えすぎじゃない?」


「そうかもしれないけど」




 最初は気にも留めなかった。


 人間生きていれば嫌な事や間の悪いことなどいくらでもあるものだ。


 夢と関連付けて考えるほど自分は幼稚ではないと思っていた。


 しかし、それも続けば気になるというものだ。




「最初が財布だったかしら?」




 真央が面白そうに過去を穿り返す。




「ああ、財布だったね。最初って訳でもないけど」






 それは給料を貰った翌日だった。


 財布の中にはまとまった金額が入れられた。


 独身の一人住まいだ。家にまとまった額を置いておくよりも、財布に入れておいた方が安心できると考えていたのだ。


 ところが、その行為が仇になるとは思わなかった。


 気がつけば財布が見事に無くなっているのだ。落したのか、スラれたのか。




 どちらにしても、ショックは大きかった。


 とにかく警察に届けようと直ぐに行動を起こしたが、警察は細かく用紙に記入しながら「こういうのは出てこないんだよね」と追い討ちを掛けてくれた。

 

 しかし、ありがたいことに数日後財布が届けられたと連絡があったのだ。


 だが、喜びは再び奈落の底に落されることになった。


 残念ながら、戻ってきたのは空の財布だけだったのだ。




「あの時は、拾ってくれた人を逆恨みしたい気分だったよ」


「中身をネコババされたと思ったんでしょ?」




 箸を煮物に向けながら、真央が敦に視線を向けた。




「そりゃぁそうだろ? 


誰だって、拾ってくれて、ありがとうと思いたいけど、中身が空なんだぜ。


事情を聞けばゴミ箱の中にあったから、近くの店の人と一緒に拾ったというし、


そうなればネコババの嫌疑は晴れるけど、俺の気持ちは晴れないって」


「相手もネコババされたと思われたくなかったから、証人を立てたんでしょうね。


賢いなぁ」




 あの事件も夢を見た日だった。




「給料全額だったからな、ショックは大きいよ」


「でもカード類は戻ってきたんでしょ?」


「あぁ、それはね」


「良かったじゃない」




 真央がにっこりと笑って見せた。


 確かにそうなのだ。カードまで盗まれて使い込まれていたら大変な事になっていた。


 そう思えば、金だけで済んだのだから不幸中の幸いということになる。




「あれも凄かったよね」


「あれ?」


「うん、カラオケ。あの時は、さすがに私もビックリだったわよ。


TVにまで出ちゃうし、一躍有名人!」


「有名人って……通行人レベルだろ」


 


明日も20時に更新します^^

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ