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とびら  作者: 久乃☆
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第三話 真央

 仕事が終わったのは、夜も十時を過ぎた頃だった。


 疲れが積み重なり、最早疲れているのかどうかすら分からない状態だ。


 会社の玄関を出ると携帯を取り出した。


 ディスプレーを確認すると、メールが一件入っている。


 相手の予想はついている。


 恋人の牧原真央からだ。


 真央との付き合いは、三年前に遡る。




 営業先のストレスを何とか吹き飛ばそうと、休日にひとりバッティングセンターで打ち込んでいたときだった。


 敦の鬼気迫るバッティングを見ていたのが真央だった。


 敦が終わると、真央が声を掛けてきた。


 それは如何にも楽しそうに、(とっても興味があるのよ)と顔に書いてあった。


 敦はそんな真央に不快感をあらわにしたが、真央の屈託の無い笑顔にそんな感情は引っ込んでしまった。




「余程の事があるみたいですね」




 真央の最初の言葉だった。




「そう見えますかね」


「見えましたよ」


「そうですか、それじゃ」




 敦がその場を去ろうとした時、真央が更に言葉を繋げた。




「休日に一人はつまらないでしょ? 一緒に、休日を楽しまない?」




 一瞬、(逆ナンか?)とも思ったが、振り返って真央を見てみると、そこには敦の好みのタイプの女性が立っていたのだ。


 細身で長い髪をひとつに結い上げ、薄く施された化粧。


 GパンとTシャツのラフなスタイルが見事に似合う。


 27年生きてきて、ここまで自分の好みのタイプに出会うことがあっただろうか。


 いや、答えはNOだった。


 大学時代を回想しても、タイプに近い女性は確かにいた。


 しかし、それらは妥協点に過ぎない。


 今、目の前にいる真央は、敦の理想そのものだったのだ。




(俺は何てついてるんだ! こんなに好みの女性から声を掛けてくるなんて!)




 その日から敦と真央の付き合いが始まった。


 携帯のメルアドを教え合い、携帯番号を教えた。


 いつの間にか、毎日のようにメールが来るようになった。


 日を追うごとに、敦からもメールをするようになっていった。


 過去、誰と付き合おうと自分からメールをしたことなど無かっただけに、自分の変わりようが不思議に思えたほどだ。


 しかし、それほど真央に好意を寄せているのだと思えば、納得が行く。


 付き合う時間が長くなればなるほど、真央の素晴らしさが敦を虜にしていった。


 真央が笑顔を向けてくれることが嬉しくて、真央の喜ぶ事を進んでした。


 人を愛するとはこういうことだったのかと、初めて知ったような気がした。




(今までの恋愛は何だったんだろうな)




 メールを読みながら、疑問が湧く。




(きっと、今までのは恋に恋してる状態だったのかもしれないな)




 人を愛するという事が、これほど楽しく切ないものだとは思ってもいなかったのだ。


 今は、真央からのメールだと知っただけで、胸が高鳴るのを止めることが出来ない。




《お疲れ様。明日も頑張ってね》




 たったこれだけの内容。


 それでも、敦は満足だった。


 全ての疲れが飛んでいくように感じるのだ。




《お疲れ様、そっちも仕事終わりかい?》




 真央からのメールだと、直ぐに返信を打ちたくなる。


 これが、たまに商談中に掛かってくると気持ちが浮わついてしまって困ることがあるのだ。

 

 それゆえ、今は大事な商談の時は電源を切るようにしているくらいだ。

 

 着信があったら、直ぐにケイタイを開けるように、手に持ちながら歩き続けると敦の気持ちを分かっているようにケイタイが鳴った。




《もう、十時だよ(笑) 明日に備えて、のんびりしていたわ》




 真央からの連絡が来ると、会いたくて時間の感覚が無くなってしまう。その為、いつも同じ様に真央から笑われるのだ。




《よく俺が仕事終わりだと分かったね》




 別に分かったわけではないのだろうが、不思議と敦の仕事が終わった頃にメールが来るのだ。




《第六感ってやつかしらね。明日、忙しい?》




 敦の鼓動が速まる。




《何で?》




 それでいながら、そっけない態度を取りたくなる。




《会いたいと思ってさ》




 真央はいつでも直球勝負なのだ。


 以前、同じ様に会いたいといわれ、少しじらしたらどうなるだろうと戯れに返事を濁したことがあった。


 今まで付き合ってきた女性経験からすれば、じらされれば可愛らしく拗ねてみせるなどの態度があるものだ。


 それゆえ、真央がそういった態度を取るであろうと期待していた節もあったのだが、残念ながら真央はたった一言《そう? じゃいいわ》と返信してきたのだった。


 それ以来、敦は真央に仕掛けるような真似はしなくなった。


 だから、今回ももちろん




《嬉しいね。俺も会いたいよ》となる訳だ。


《じゃ、明日大丈夫なのね》


《7時位には上がれるように調整するよ》


《分かったわ、いつもの店で待ってる》


《ああ、楽しみだ》


《えぇ、久しぶりに楽しみましょ(笑) じゃ、お疲れ様》


《お休み》




 敦は静かにケイタイを閉じた。


 いつも思うのだ。今のこのやり取りを誰かに見られたとしよう。


 果たして、誰が恋人同士だと思うだろうか。


 敦は、笑いたいのを堪えながら、家路へと歩を進めた。


明日も20時更新です~

また読みにきてくださいね^^

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