第五話 デート(2)
あの事件も夢を見た日だった。
友達数人とカラオケに行こうということになり、雑居ビルに入っているカラオケルームでアルコールを補充しながら、熱唱の嵐だった。
日頃は仕事でなかなか会うことの無い仲間が集まって、大いに盛り上がっていた。
一次会を居酒屋で過ごし、二次会に突入だということでカラオケに来ていたのだから、それ相応にアルコールが回っていたはずだった。
部屋のドアを閉めれば室内の大音響で、外の音は聞こえてこない。
誰もが陶酔しきっていたその時だった。どこからか火災警報器のようなベルの音がかすかに聞こえてきたのだ。
敦は視線を室外へと向けてみたが、廊下を走っている人の姿は無く、いつもとなんら変わるところが無い。
気のせいだろうと、友達の歌声に耳を傾けるが、やはり火災警報器のベルが耳について離れないのだ。
徐々に不安が敦を捕らえ、敦の頭の中で警報が鳴り響きだした。
このままではダメだと思った敦は、部屋のドアを開けた。
すると、今までかすかに聞こえていたベルの音が頭蓋骨を叩き割るかと思うほどの大音響で敦を襲ってきたのだった。
それからは、友達に声を掛け全員でその階の部屋に声を掛け、階段を駆け下りた。
良くそれだけのことが出来たものだと思うが、人間土壇場になると結構動けるものである。
店から出ると、カラオケ店の上の階からの出火らしく、外から見ると火の勢いが激しかったのを覚えている。
あの火災で亡くなった人が大勢いたため、翌日のニュースになっていたのだ。
そして、ヒーローインタビューは友達に持っていかれたというおまけ付だった。
「あの時はビックリしたわよ。死んじゃったかと思ったもの」
「そんな大変な事になっているとは思わなかったから」
敦が照れ笑いを浮かべながら、ジョッキを口に運んだ。
そうでもしないと、余計な事を言いそうで怖いのだ。
翌日ニュースが流れると、真央が敦のケイタイに電話を掛けてきた。
ところが間が悪いことに、前日の火災で警察にいろいろと聞かれ、酔いが覚めたといって、朝まで飲み続けてしまったのだ。
泥酔した状態でアパートに帰り、前後不覚で寝込んでしまった。
つまりは、真央がどんなにケイタイを鳴らそうと、敦の耳には届かなかったわけだ。
真央の方は、事前に『今夜は友達とカラオケだよ』と聞いていただけに驚き慌てたわけだ。
「いくら電話しても出ないしねぇ。あれは無いわよね」と、この話になると言われるのだ。
その為、この話が出るとこれ以上余計な事を言わないように、口をつむぐことにしている。
真央は軽く敦を睨んだ。その目は、もう止めてねと言っている様に見える。
「でも、どっちも結果オーライじゃない」
「まぁね、どういう訳か。最終的には結果オーライだ」
もちろん他にも多々ある。しかし、そのどれを取っても確かに結果は良好となる。
生きている限り悪い出来事に遭遇せずに行くなどということはあり得ない。
そんな事は分かっているが、やはり気になるのが夢との関連だ。
「ずっと黙っていたんだけどね」
「何? 隠し事?」
「そんな大きなことじゃ無いよ」
敦は笑いながら、つまみを口に入れた。
「大きくないのに、どうして黙っていたの?」
どうして黙っていたかと言うと、ただ単にばつが悪かったからだ。
「そんなにばつが悪いことなんだ」
真央が(へぇー)と意地悪そうな視線を投げてきた。
真央と付き合って三年になる。
こういうときの真央が何を考えているかは大よそ検討が付く。
可愛い顔をしているが、性格はいじめっ子的なところがあるのだ。
「そこまで話を振りながら、言わないって事は無いよね」
良く分かっている。話を出した以上、言わないで済むはずはないのだ。
「あぁ。もう暴露してもいいかなぁって思ったから、話を出したんだからさ」
真央が真剣なまなざしへと変わる。
(話を聞いたらどういうかな……)
多分、真央の性格なら笑い飛ばすだろう。
分かってはいるが、傷つけたくないという思いが働いて今まで言えなかったのだ。
「実は……」
明日も20時に更新しま~す^^v




