7話 引きこもる準備はできたか?
恋「なぁ、流石にこれはおかしくないか?」
秋も過ぎ、冬がちらちら見えつつある今日、学校は異様な雰囲気に包まれていた。
龍也「流石にというか、普通におかしいだろ、これ」
真莉「先生、来ないですね。もう二時間目終わる時間なのに」
そう。先生が来ていないのだ。うちのクラスだけかと思いきや、どうやら全クラス居ない。これは何かを勘繰るのも変じゃないだろう。
実際自分の中では、100を超える仮説が出来上がった。嘘だ。3つくらいだ。
恋「あ、情報きた。ええと?ん!?」
龍也「何があったわけ?結局」
恋「うちの先生全員、労働環境に対しての不満が爆発してストライキした。ってことが長々と書かれているみたい」
つまりは。
龍也・恋「「合法長期休暇、キタコレ!!!!!!!!!」」
真莉「学校、おやすみになっちゃいましたか……」
龍也「じゃ、僕は食糧買い込んで引きこもるので。バイバイ、二人とも」
僕はうっきうきで近所のスーパーへと駆けだす。つもりだった。
恋「待てって。せっかくなら今日は三人でどっか行かない?」
真莉「あ、賛成です!」
むう。2人に退路を塞がれしまっては帰れないじゃないか。全く。
龍也「わかった。でも僕は行き先決めないからな。理由は面倒だから」
とても気が向かない。せっかくの休日だぞ?やる事と言えば、徹夜で積みゲーをクリアするしかないだろ常識的に考えて。
素晴らしいスタートダッシュを切れなければ、全部パーになってしまう。
でも、それは自分勝手すぎるのもわかっている。
ちょちょっと一緒に遊んで、帰る時にいろいろ買えばまああんまり変わらないだろう。
恋「知ってる。知り尽くしてる。じゃあ行くぞ。カラオケ」
龍也「久しぶりだな。って、真莉は大丈夫?」
一応、ね。
真莉「はい!龍也くんがいればどこでもいいです!」
どこでもって。そりゃいい過ぎだろ……。流石の龍也くんもちょっと引きますよ。
色々な不安もあったが、それは全部置いておいて、カラオケに行くことになった。ふふん。僕の歌のうまさを恋に見せつけてやるぜ。
◇
恋「いよ~し!なんとフリータイム学割で1200円!歌い放題じゃんね」
龍也「はいそこ。条例で23時までだからそれまでに僕は帰るからな。何と言われようと」
真莉「私もそんな長くは居られないです……」
流石は真莉だ。しっかりしている。頼もしいぜ待ったく。
まあ本音はそんな長く歌ったら今日の徹夜に響くからなんだけどな!ぐはははは!!!!
恋「むう。真面目人間ばっかり。じゃあはい。トップバッターね」
恋はさも当然かのようにマイクを僕に渡してきた。
ドリンクバーにしたから、人は入ってこないしまあいいか。さて、何を歌おうかな。
◇
龍也「ふぅ。まあまあかな」
歌ったのはトレンドソング。無難だ。流石に真莉がいる手前、堂々とギャルゲのOPを歌うわけにはいかない。ギャルゲの良さを分かってなお名曲は更に輝くのだ。
そうして採点がつく。まあ85ってところだろう。
恋「おお。87点。やっぱ無駄に上手いね。歌」
龍也「コンテナハウスってほぼ一軒家だからね。歌い放題だから発声しまくりなんだよ」
会話しながらも、次の曲が掛かる。どうやら時計回りで歌うことにしたようだ。それで次は恋らしい。
恋って歌下手だったよな。大丈夫か?
◇
龍也「まじかよ……」
歌い終わったそのモニターに書いてある点数は、なんと94点。練習してたのか……。
うわ。如何にも”まだまだだね”みたいなことを言い出しそうな表情でこっちを見ている。あの顔にこの歌唱力って、アイドルでも始めるつもりなのか?
真莉「次は私ですね!あ、あんまり期待しないでくださいね?龍也くん」
龍也「大丈夫!別にSNSとかに乗せるわけじゃないから、パッション!歌はパッションだ!」
真莉「えへへ。じゃあ僭越ながら……!」
お。入れたのはボカロか。しかも結構マニアックだ。
僕が歌おうと思ってそれ入れたらぐっちゃぐちゃになったやつだけど大丈夫かな?
◇
龍也「は、ははは……」
まじですか。モニターには92点の文字が。
結構へこむ。これでも歌は上手い自信あったのに、これじゃあ下手くそみたいじゃないか。
たまにはみんなでカラオケ来るのも悪くないな。一人で来るのとはワケが違う。こういうのも悪くない。そう思う自分がいる。
龍也「次は僕も取ってやるぞ、90点代!」
そして僕はマイクを取った。
僕たちの歌唱はここからだ……!!!
◇
龍也「さ゛す゛が゛に゛つ゛か゛れ゛た゛な゛」
真莉「ふ、ふふっ……。龍也くん、流石に声掠れすぎです」
恋「そ゛う゛だ゛よ゛り゛ゅ゛う゛や゛。の゛ど゛は゛た゛い゛せ゛つ゛に゛し゛な゛い゛と゛」
喉が痛い。はしゃぎ過ぎた。それにしても真莉はきっと歌い手やっていた。発声がガチで、喉全くイカれていないのバケモノだろ……。
でも、まさかあのボカロをデュエットできるとは思わなんだ。一人しかないのにハモリを必死に覚えたのが報われて嬉しかったぞ。
そして本日何度目かわからないメロンソーダの飲み干しを終わらせ、帰りの準備を始める。
龍也「じゃあ、このビル出たところで解散になる?」
恋「そうだね。流石にここからどこか食事行くほどの気力はオレもないよ」
恋はかっすかすの声で会計を済ませ、割り勘分のお金をそれぞれ渡した。
夜の外風が気持ちいい。今日はよく寝れそうだ。
恋「オレこっちだから。じゃーなー!」
恋はそのまま帰っていった。目がとろんとしていたな。帰りの電車で寝てそうだ。
それはそれとして。
龍也「真莉はどっちから帰る?」
真莉「あ。龍也くん、多分この後お買い物しますよね。良かったら一緒したいな。なんて」
龍也「そんな面白いものじゃないけど、それでもいいなら」
なんで僕はこういう時に目を見て喋れないんでしょうか。自分の不甲斐なさが憎い。
そして、当の真莉は首が取れそうなくらい頷いている。まあ確かに、夜に差し掛かっている中一人で帰らすのも男としてどうなんだって話だしな。
……恋はまた別だ。多分不審者が来たら返り討ちするだろ。多分きっとおそらく。
龍也「そうだ。あんまり詮索はしないけど、歌い手とかやってた?あんなに上手だと、合唱に紛れていても不思議じゃないよ」
真莉「えへへ。やってないです。でも、私も歌い手は憧れました。小さい頃、それくらいしか楽しみがなかったので、ボカロはそこそこ知っているんですよ」
これは意外な共通点だ。ボカロオタクとして、こんなに嬉しいことはない。買い物そっち抜けで話し込みたいくらいには。
……でも、こんな夜に二人で話そうっていうのは下心あるように捉えられかねない。やめよう。
龍也「感激だよ。まさか語れる人がこんな近くにいたなんて。生まれてきてくれてありがとう」
少しおどけていったその言葉に、真莉はちょっと驚いた様子だった。
ちょっと俯いたあと、今までにないくらいの笑顔がそこにあった。やめてくれ。惚れてしまう。
真莉「あ、あの。えっと。とにかく買いに行きましょう!引きこもるんでしたよね?」
龍也「う、うん。二週間分は用意しておこうかな」
なんか気まずい雰囲気の中、僕たちは近くのメガショッキに足を運んだ。
◇
真莉「不健康の極みみたいなカゴですね……」
龍也「これが必要なんだ。徹夜のおともだよこれは」
僕のカゴには、一気飲みしたら死ぬくらいのエナドリが詰め込まれている。エナドリは素晴らしい。人間の限界を引き出してくれる。
連休はこれを飲んで、連休明けに離脱症状で地獄を見るのが一種のルーティーンだ。
真莉「もう少し健康的な生活を送った方がいいと思います!」
むう。そんなことを言われたら少しためらってしまう。次から気を付けよう。
それにしても、なんか今日の真莉はやけにテンションが高いというか、いつもより活き活きしているな。これが連休パワーか……。
龍也「気を付けます……。次から」
真莉「もう。恋さんと違って私は優しいので許します」
女神だ。女神が居る。でも心配してくれているのは本気だろうから、次から気を付けよう。うん。
結局、沢山の冷食とエナドリを買った。リュックがパンパンで重いけど、その重さは安心する。これで籠れるな。
龍也「付き合わせちゃった。駅まで送るよ」
真莉「いえ、大丈夫です……。過剰摂取しすぎました」
どういうことなのだろうか。よくわからないが、真莉の意志を尊重しよう。心配は心配だけど、表通りを通ったらまあ大丈夫、かな?
龍也「一応帰ったら連絡をちょうだい。結構心配だから」
真莉「わかりました!じゃあ、ここで失礼しますね」
真莉はペコリと頭を下げて、足取り軽く帰っていってしまった。
龍也「じゃあ、僕も帰るとしますか」
その後、キチンと真莉からお礼の言葉と共に帰ったことを知らせる連絡がきた。よかったよかった。




