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無可有郷のスーサイド  作者: 一ノ瀬隆
共通章『僕はこの日常を謳歌する』

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5話 この透き通るような空の中で

恋とのお出かけから二週間。平和な生活を送っていた。

真莉と恋の二人がいるから、前に比べて一人の瞬間が減った。それもあって正直めっちゃ楽しい。


だけど、少し気がかりがある。

それはサクラだ。この前屋上で会ったっきり、ぱったりと姿を現さない。事故とかに遭ってないけどいいけど。


なんて、思いながら久しぶりに屋上に足を運んだ。


いつもの様に好きな景色が広がるそこには、


風になびかれているのが良く似合う金髪を携え、今まさに会いたかったその人がいた。


龍也「お~い」


僕の呼びかけに、サクラは気づいていないみたいだ。これはチャンス。この前の仮を返すときが、今きた!

そ~っと近づく。バレないようね。


龍也「ばあ!!!!!」


覚悟を決めたその脅かしは空かされ、


サクラ「たあ!!!!」


龍也「ぐへえ」


カウンターでみぞおちに掌底を喰らった。


龍也「う、うぇえぇぇ……」


痛い……。絶対わかってやってるなコイツ。悶えて這いつくばっている僕を豚を見るような目で見下して来る。屈辱だ。


サクラ「あら、ごめんなさい。ビックリしちゃって」


サクラはワザとらしい口調で、手を口に当てながらほざいている。くっそ……。


◇


龍也「はあ。だいぶ痛みも引いた……」


サクラ「今度から気を付けることね」


龍也「そこは一言くらい謝ってくれていいんじゃないかな!?」


ダメだ。サクラのペースに乗せられたままじゃどうもこうもならない。とりあえず聞きたかったことを聞こう。


龍也「……まあいいや。それにしても、なんでここ最近は居なかったんだ?」


サクラ「だって会いに来なかったじゃない。貴方は見たい動画があれば、検索しない状態で”なんで流れてこないんだよ!!!”って怒るのかしら」


龍也「ぐう……。ごもっともでございます……」


ぐうの音が出たな。自分でも美しいくらいのぐうの音だ。


サクラ「それよりも付き合ってよ、真崎龍也」


龍也「へ?」


まずい。何か面倒ごとに巻き込まれる予感がする。逃げるか。


サクラ「午後の授業、抜け出すわよ」


はは。ほら言っただろ?面倒ごとに巻き込まれるって。


◇


抜け出しちゃった……。


なんてバカみたいに言っている暇はない。まさか、裏口があるとは知らなかった。すっごい簡単に抜け出せちゃったんだけどいいのかこれ?

まあ、もうやってしまったからには仕方ない。真莉と恋には後で連絡しておこう。


龍也「ところでなんだけど、サクラって本名なんていうんだ?日本人じゃないのは姿からわかるけど」


サクラ「シュイト・テッラ・サクラよ。しっかり脳髄に焼き付けておきなさい」


────シュイト・テッラ・サクラ。

その響きは、どこか懐かしさと胸のざわめきを僕に植え付ける。しっかり覚えておかないとな。


なんでだろう。その名前は、良く知っているどこかの光景を、フラッシュバックさせたような気がする。ま!気のせいか!


龍也「いちいち言い回しが怖いんだよ。本当にやってきそうだし」


サクラ「ふん。本当に忘れたら眼球を優しく取り出してあげる。感謝しなさい」


龍也「目が笑ってない……。本気だこの人」


龍也「それで、何処向かってるの、今?」


サクラの足取りは軽い。しっかりと目的地はあるみたいだ。


サクラ「赤れんがよ。ゆっくりできるし、都市で自然を味わえるし、何より私に似合うでしょう?」


龍也「はいはい。じゃあ行く代わりに僕の行きたいところも付き合えよな」


なんだかんだ言って、この非日常にワクワクしてしまっている自分がいる。

サクラと居れば、この札幌だって異世界になっているような、そんな気分が駆け巡る。なんてね。


秋風が吹く札幌を横切り、さっそうとこの赤れんがに着いた。

予想していた通り、サクラと相性がすごい。写真集が作れそうなくらいはマッチしている。


サクラ「えへへ。写真を撮ってくれてもいいのよ。というか撮りなさい」


龍也「ははは。面白い冗談だ。僕がスマホを持っているとでも?」


サクラ「ふふふ。そちらこそ面白い冗談ですこと。私の言うことが聞けないなんてすごい胆力だわ」


やばい。サクラの顔が悪役令嬢のソレだ。拷問しているのが似合いそう。


サクラ「まあいいわ。それより、ここはやっぱりいい場所」


龍也「それに関しては同意。明治の雰囲気が琴線に沁みるね」


サクラ「前々から思っていたけど、貴方の言い回しって独特よね。厨二病?」


龍也「いいじゃないか。厨二病でも」


僕の返答に、顔をしかめるサクラ。ふふ。僕はこの喋り方なのだ。誰が何と言おうと、自分の喋り方を邪魔することはできないんだよ。ははは!!!!!

サクラはその後、はしゃぎながら赤れんがを一周して、ご満悦の表情だった。


口調はアレだが、中身はお可愛らしいことで(笑)


サクラ「あ、今私のこと馬鹿にしたわね。言葉じゃなくて態度でわかったわ」


龍也「まさか。そんなわけないじゃないですか」


ヤバイ。焚きつけたなこれ。


龍也「いや~。まさかそんなわけ、いや待って!暴力反対!!!」


サクラ「ふんッ!!!」


サクラのおみ足は周回軌道を描き、僕の大事な股間へとダイレクトアタック。さらば世界。ありがとう人生。


龍也「う、ううううう……」


サクラ「ほら、早く立って。貴方の行きたいところに連れて行ってよ」


本当にコイツは人の心がない。常識が壊れているよ。


◇


そうして訪れたのはここ、札幌オタクの聖地であるアニメントがあるこのビルへとやってきた。

ここは素晴らしい。なぜなら、あるのはアニメントだけじゃない。メロブとろくぶんぎもあるのだ。まあ、いつもはもう一つのオタクの聖地に行っているんだが、今日はこっちの気分。


サクラ「ふーん。ここに来たかったわけね」


龍也「サクラならこういうサブカルチャーな所を見たら”この醜悪なオタクが”くらい言うと思ったぞ」


サクラ「私って貴方からするとどんな人だと思われているのかしら。人の趣味を否定することはしないわよ」


サクラ「逆に趣味を持っていない人の方が嫌い。故にサブカルチャーも一つの文化。それが私の考え」


意外……!サクラの認識を改めないといけないな。ただ僕に対してのあたりが強いだけだったか。

そうしてまあまあ急で狭い階段を上がる。メロブは同人誌が豊富だ。でも成人向けが多い。僕には入れないのでパスだ。


まあ、一応成人向け作品は自粛している。18になった時に、年齢確認で堂々と”はい”を押すんだ。それがかっこいいオタクとしての矜持。


なのでアニメントへとGO。

だが、アニメントは正直さっと見るくらいだ。女性向けって感じ。2.5次元がよく似合うアニメ漫画ゲームを多く取り揃えているからな。残念ながら僕は腐っていないのだ。

まあ、腐女子の考えはわかるっちゃわかる。僕も声優でやるギャルゲ決めるし。


龍也「こういう作品、サクラどう思う?」


サクラ「嫌いじゃないわ。ほら、私って美麗でしょ?似合わない?」


龍也「多分これ好きな層って、女性と付き合うより男同士で付き合った方がご褒美だぞ」


サクラ「あら。そうなの?じゃあどうでもいいわね」


うーん。やっぱりソシャゲの枠増えたな。それとV。最近追ってないから知らないな。

……あ、このユニは懐かしい。あの配信面白かったな。


龍也「じゃあ上行くぞ」


サクラ「あっちの本は見なくていいわけ?」


龍也「僕にBLはまだ早い。だからいい」


サクラは僕の問いかけに「フーン」と言いながらちょこちょことついてくる。店内が狭いからド○クエ方式になるのは必然だな。

それにしても男オタクに優しくない……。


そしてつきましてはろくぶんぎ。こちらは中古品があるから掘り出し物が見つかる。

僕もニヤニヤ動画で流行った例の”空耳テニス”のDVD買った。普通に曲としていいんだよ。原作も見たら熱くなれるし。


龍也「今回は収穫ないな……」


サクラ「ねえ。あっちの奥にはいかないわけ?明らかに避けてるけど」


龍也「はは。あっちは聖域なんだ。僕みたいなレベルの低いオタクはいけないところなんだよ」


サクラ「ふーん。じゃあ行くわよ」


と言われて腕を引っ張られる。やめて!心構えが!


サクラ「あら。ここはそういうことね」


龍也「はあ。来てしまったからには名作探すか」


サクラ「ええと?…………なかなかな題名とパッケージなこと」


龍也「しゃーないだろ。エロゲなんだから。あ、これはあの……!」


今まで来たことはなかったけど、なかなかにいい作品があるな。エロ要素が削がれたコンシューマ用の方しかやっていない名作も多数ある。パッケージを見られただけで眼福だ。


サクラ「ねぇ。龍也。貴方こういうのが好きなの?」


龍也「……まだ分からない。だけど、オタクの根源たるジャンルだから、避けては通らないだろう……」


サクラ「面白くない反応。そこは動揺しなさいよ」


龍也「え?ああ。ついリスペクトが」


サクラ「ふふ。私がこんな展開、再現してあげましょうか?」


なんて甘美なセリフでしょうか。だけど、僕にはそんな展開もったいない。

一線を越えない。それが僕の信念であり、僕を僕とたらしめる思考の理念なのだ。


だから────。


龍也「暴力女にされても困ります。ぜひ別の人にしてあげてください」


サクラ「殺す」


あ、今回は目に正気がある。わかりやすいな、サクラ。

いや、怒りがオーバーフローしたのか?これ。じゃあめっちゃ怖いな。


龍也「僕は冗談でもそんな提案乗らない。もっと自分を大切にしろよ。女子なんだから」


サクラ「龍也でもそんなキザなセリフ言えるのね。さすが厨二病だわ」


龍也「最後の一言が余計だ……!」


結局今回は何も買わず、このビルから僕たちは出た。

18歳になったら買いにこよう。やっぱり原本を知りたいからな。


サクラ「今日はなかなかに有意義だったわ。ありがとう」


龍也「夜ご飯食べていかないのか?」


サクラ「今日はもう疲れちゃった。じゃあね」


龍也「はあ。行動が自分勝手すぎるぞ。アイツ」


いきなり始まってしまったこのサボりツアーは、終始サクラに振り回されて終わった。まあ楽しかったから良しとしよう。

ちなみに、帰ってPCを立ち上げたらおぞましい数のメッセージが恋と真莉のどっちからも来ていて焦ったのはまた別の話だ。


そう言えば……。サクラはなんであんなに神出鬼没なんだ?まるで、僕に日常を飽きさせないように動いているような……。

いや、気のせいだろう。さて。僕はこの楽しい日常を謳歌させてもらうぜ!

【TIPS#5】 シュイト・テッラ・サクラ


年齢:17歳

身長:169cm

髪色目色:金髪青目


学園という喧騒の中にいながら、彼女は常に独りだった。

不思議なのは、その美貌にかかわらず、誰一人として彼女に言葉をかけず、存在を気に留める様子さえないこと。まるで、彼女はこの世界の景色の一部であるかのように。


そんな「目立つ孤独」に惹かれた龍也との出会い。

ミステリアスな雰囲気を漂わせる彼女だったが、その実態は、家事全般が壊滅的で生活力ゼロという、意外すぎる欠点を持っている。

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