2話 オタクにリアルギャルゲは難しい
リンリンと、時代にそぐわない不快な音が聞こえてきた。
耳を劈くようなベルの音が鳴り響く。僕はたまらなくなって少しの苛立ちと共に眠りから覚めた。
龍也「……ん、もう朝か……。」
眠い目を擦って重たい体を起こす。
コンテナハウス内は冷え込んでおり、体の末端がカチカチだ。動かすのも億劫になる。
???「あ。起きた。早く朝ご飯作ってほしいんですけど。もう1時間は待ちくたびれたわ」
ん?誰だ?僕は天涯孤独の一人暮らし。普段話しているのも恋だけ。でも恋は普通に家族と暮らしているから、外泊とかをするわけがない。
恐ろしい事実に震えながら、ゆっくりと目を開ける。
そこに居たのは────
昨日、あの時であった金髪の美少女だった。
龍也「なんでここに居るんだよ。サクラ……だったっけ?」
僕のゲーミングチェアに足を組みながら座っているサクラが居た。少し差し込む光も相まって、僕の心臓をドキッとさせてくる。
……心臓に悪いぞ。朝から。
サクラ「そういうのは後にして。私はお腹が空いているの」
なんて奴だ。僕は絶句が止まらないですはいはい。
こんな無礼な奴に優しくしてやる道義なんてない。そう理性は語り掛けている。しかし、頭は何故かわからないが嫌うことができないらしい。
龍也「はぁ……。わかったからちょっと待て。トースト焼くからそれでいいか?」
サクラ「よろしい。もちろん味付けはイチゴジャムしか受け付けないわよ」
……なんて遠慮のない奴!
うーん。癪に障るけど、好みが似ているらしい。僕もトーストにはイチゴジャム派なんだ。最近飽きてきて、マーガリンで食べている所だったけどね!
そうして”なぜか”二人前も用意しなくてはいけなくなった自分をご自愛して、いつも通りの手順でささっと準備する。手の凝ったものはまあいいだろ。
龍也「ほら。作ったぞ。これジャム。食べ終わったらそこの濡れティッシュ使うか台所で手を洗えよな」
サクラ「ありがとう。それじゃあいただきます!」
随分素直に礼を言うんだな。しかも満面の笑みで頬張っているし。それならまあいっか。
僕らしくなく、すっかり怒りが収まってしまった。
龍也「んじゃ僕も食べますか」
と、トーストに口をつけようと思って暖かいコーヒーを置きながら座ろうと思ったその時。
サクラ「ごちそうさま。お礼にじゃあそこのゴミ袋投げておくわね。行ってきます」
速すぎんだろ……。
あっけにとられたまま、僕はご飯を食べて身支度をしたのであった。
◇◇◇◇◇◇
恋「よ!どうした疲れた表情して」
非日常に片足突っ込んでる中、恋は変わらなくて安心する。流石マイ・ベスト・フレンド。
恋の顔を見ると落ち着くのは性と言えるだろう……。
龍也「なんでもない。それより、なんでこんな教室ざわざわしてるんだ?」
恋「あ~。何か転校生来るらしいよ。珍しいよね」
この時期に転校生?珍しいなんてもんじゃないぞ?
内心と~ってもワクワクしているのを隠すように、”どうでもいい”と机に突っ伏す。
龍也「そりゃ……また珍しいな」
恋「噂だと女子らしいよ。良かったね龍也」
ニヤニヤしながら肘でつついてくる。何だこいつ!
龍也「なんでそう振るんだよ。僕は女好きじゃないし、まずまずコミュ障だって知ってるだろ?」
そんな風に話していると、ガラガラと扉を開け、先生が尊大な雰囲気を出しながら入ってくる。
たまらず僕と恋の会話は先生によって中断されてしまった。
先生「お前ら席に着けよ~。今から新しいお友達紹介始まるからな~?」
小学生かよ!!!というツッコミが心の中でかまされながら、扉の奥をじっと見る。
先生「入ってきていいぞ。皆、これから優しくするように」
教室に入ってきたのは、目の奥に何かを抱えているような、そんな少女だった。
桃色の髪を携えた、不思議な雰囲気を持つその少女は、周りを一通り見た後、僕の方を見た。
その瞬間。ハイライトが灯ったような、そんな表情をする。また厄介事が降ってくるのか……?
???「瀬ノ内真莉です。皆さんよろしくお願いします……」
その紹介と共に、真莉とか言った女子は僕から遠く離れた席に座った。テンプレなら隣とかだろjk。
ホームルームが終わるや否や、ミーハーのクラスメイト共は転校生に集まる。
龍也「恋。次の教科なんだっけか」
恋「ん~?次は数学だよ。龍也さんお得意(笑)の」
龍也「馬鹿にしたな!?ちょっと勉強してなくて始めて赤点取っただけなのに!!!」
真莉「あ、あの。すみません」
僕と恋の漫才を仲裁するとは何奴か。
そうむすっとして横を見ると、さっきの転校生がそこに居た。
真莉「龍也くん。ですよ……ね?」
なんだこの展開は。なんなんだ????
真莉「ねえ、覚えてますか? 私たち、ずっと昔に会ったことがあるんですけど……」
突然のことに頭が真っ白になる。僕は女子が苦手なんだ。目を合わせて話すだなんてそんなことできるわけがない。
思わず返答が上ずる。
龍也「へ、は、はい?ど、どっかで会いました……か?」
隣で恋が”ニチャぁ”とした表情をしている。後でぶん殴る。絶対。ぜ~~~~ッ体!!!!!!
真莉「あ、いや。気のせいだった……かもしれない、です」
真莉「でも、よろしく、です。あの。私、友達居ないので。あなたは、優しくしてくれそうだし……」
龍也「それってバカにしてない……?」
僕のツッコミに真莉さんは一瞬申し訳なさそうな表情をしたのち、クスっと笑った。まあいいか。どうせ学校で話す人なんて、恋くらいだし。
一人増えたくらいで動揺しないのがこの真崎龍也だ。
恋「真莉ちゃん、だっけ?よろしくね。こいつは3回くらい話さないと目を見るどころか名前すら呼ばないやつだから気を付けなよ」
流石恋だな。男からも女からも満場一致の王子様。このクラスが平穏なのも恋のおかげってのはこういうところなんだろう。
でも僕、馬鹿にされすぎじゃない?可哀そうだと思わないのかな?
龍也「なんかあったら恋に頼るといいよ。恋なら多分この学校を潰すことくらい片手間だろうから」
ふん、仕返しだ。と言わんばかりにニヤッと恋の方を向く。当の恋は怖い笑顔だ。笑ってない。
死を覚悟しました。ごめんなさい。
真莉「龍也くんが言うなら、頼らせてもらいますね。よろしく、です。恋さん」
なんと転校生が来たのと同時に、僕たちのグループが三人になってしまった。でもまあいいだろう。僕の語りに付き合う被害者が増えたのでな!!!
はーっはっはっは!!!!
そう顔をあげると、周りの視線が痛い。まあ当然か。転校生といきなり仲良くするなんて、普通じゃない。僕自身も謎だし。
居心地が悪い僕を見計らったのか、恋が周りにあの”スマイル”を見せつけた。そうすると、途端に各々の話に戻っていった。
うん。僕は未来永劫、恋に逆らわないことを今誓ったよ。
◇
今は昼休み。僕は人と話すのが苦手なんだ。一人の時間を確保中ですよ素晴らしい。
ここは屋上。なんとこの学園。屋上が解放されているのだ。さすがやる気のない先生共が運営しているだけある。
そして小汚いここは生徒から嫌われている。そこが逆に自分にとって都合がいいのだ。
さて。購買で買ってきたパンを食べるとしますか。
今日はなんと、週一で入荷する素晴らしいパン、イチゴクリームパンだ!
このイチゴクリームパン。ただのパンじゃねえ。まず生地が普通のパンより薄い。ただのコッペパンじゃなく、しっとりとしながら素材を主役にしてくれるんだ。
そして何と言ってもイチゴ。まさかの一つのパンに3つもゴロっとイチゴが入っている。丸々だぞ!!!
龍也「んじゃ、いただくとしますか!」
???「ばあ!!!!!」
龍也「ひぃん」
一気に血圧が上がって、僕はそのまま意識を手放した。
◆
サクラ「あ、起きた。ちょっと脅かしただけで何気絶してんのよ」
な、なんだこれ。何が起きたんだ?
そんなことより、うーんふかふか。寝心地がいいなこれ。それに、お花畑に居るような気分だ。鼻に心地いい匂いが通っている。
サクラ「ニヤニヤすんな!」
龍也「ぃでっ!!!」
な、殴られた。グーで。グーで!?
その痛みから思わず飛び起きてしまう。どうやら僕は、膝枕されていたみたいだ。まあ当然だろう。気絶させられたんだし。
サクラ「それより、なんでこんなところに居たのよ」
龍也「昼ご飯を一人で食べるためだ」
サクラ「へー。じゃあお邪魔するわよ」
はあ……。なんでこうも話が通じないんだ。と思ったけど、まあいいか。食べているのは今朝作ったトーストらしいし、なんか反論する気が失せた。
というかだから食べるの速かったのか。一つは昼食べる用だったんだな。
龍也「それしても、屋上で昼ご飯食べるとかわかってるね~……」
言いかけて、ふと違和感を覚える。
サクラが食べているのは、今朝僕の家で焼いたはずのイチゴジャムトーストだ。
龍也「……なあ。それ、わざわざ家から持って登校したのか? 鞄の中、ジャムでベタベタにならなかったか?」
サクラ「さあね。そんなの、どうでもいいじゃない」
サクラは悪びれもせず、トーストの最後の一切れを口に放り込んだ。
確かにどうでもいいか。深く考えるのはやめよう。せっかくの美味いパンが台無しになる。
もぐもぐ食べながら、ちょっと気になったことをサクラにぶつけた。
龍也「サクラ。お前って友達居ないの?」
サクラ「居ない」
淡白な返答に、質問をしておいて少し気おされる。だろうな。だって友達居なそうな性格しているもん。僕といっしょで。
この学園は、よくも悪くも現代学生って感じの性格が多い。自分をしっかり持っている奴は排斥されがちなんだ。まあいじめられるというより、放置って感じだからマシだろうけど。
龍也「そっか。まあ、暇だったらまたこうやって屋上で昼ご飯食べようぜ。ずっと一人ってのも味気なかったし」
サクラ「ふん。当たり前よ」
なんて話していると。ウザったいチャイムの音が学校に響き渡った。
龍也「ま、マズイ。もう昼終わるぞ!!」
龍也「僕はもう遅れるわけにはいかないからな。じゃあ先に教室に戻る」
そうして楽しくて平穏な昼休みが終わってしまった。
◇◇◇
真莉「え?スマホ持ってないんですか?」
今は放課後。とんでもなく気まずい状況にある。我が学園は放課後のみのスマホ使用が認められている。それで真莉から連絡先を交換しようと誘われたんだけど……。
そう。僕はスマホを持っていない。親もいないし友達もいないから、持っている意味がないのだ。ソシャゲは頭が悪くなりそうだし。やりたくなったらエミュ入れればいいしな!!!
でも、今はそれを後悔している。真莉の表情が超悲しそうだ。
龍也「い、一応SNSはやってる。そっちなら交換できるかも」
恋「あ、オレ経由で繋げるよ。任せて、真莉ちゃん」
真莉「ありがとうございます!」
うーん。スマホ持とうかな……。でも使わないしな……。
なんて頭を抱えている中、手際よく相互にする準備ができたようだった。
真莉「えっと。この”シュラハト@土日イン”です、か?」
恋「あ。間違えた」
龍也「わあああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」
龍也「バカ!普通そっちじゃない方だろ!!!」
恋にやられた。さっき言われた方の垢は普段チャットで話す人と繋がる用なんだ。人に見せるアカウントじゃない!!!!
恋「ぐッ……。はは……。ご、ごめんごめん」
恋「龍也曰く、その名前は戦争の名前らしいよ。ふふふ……」
龍也「戦争じゃなくて、カイザーシュラハトだ!WW1の攻勢の名前だって言ってるだろ」
あ。やってしまった。恋は笑いをこらえきれず悶えているし、真莉はポカンとしている。
龍也「ま、まあ、そっちから別垢送るから、そっちで連絡とってくれ」
龍也「バイバイ!僕は帰る!!」
恥ずかしさのあまり、僕は逃げるように帰ったのであった。
◇
帰ってきたは良いけど、そういえばPCがレッドスクリーン出したんだったな。
龍也「まあ立ち上げてみるか」
物は試し。PCなんて気まぐれだ。立ち上げたら意外とすんなりつくなんてことあるはず。
……きっと多分おそらくメイビー。
ファンの音が小さい家に響く。緊張の瞬間だ。
龍也「おおッ!」
ついた!ついたぞ!
じゃあなんでこの前レッドスクリーンになったんだという疑問は、この喜びでかき消された。つけば正義なんだよぐへへ。
龍也「んじゃあ真莉に垢共有しないとな」
動悸がする。まあ当たり前だろう。僕は天井を向き、一悩み。
────女子にメッセージ送るの、なんかまずい気がする。
実際まずいことなんてないことは知っている。本人が繋がりたいと言っていたし。
でも、下心とかそういうところ気にするよ~。
なんて送る?無難of無難を探すか。
龍也「ええと?女子への返信はこれで間違いなし!TOP10はこれ?」
え、えぇ……。
なんてことだ。イケメンしか許されないような返信が並んでいる。マジかよこのサイト。
頼りにならないスギ。自分で考えるしかないなこれは。
龍也「自分がギャルゲの主人公なら、なんて送る?」
自問自答。それこそ正解への近道だ。
なんて送るかな。僕なら……。『今日はどうも。明日も会いましょう』かな。
うん。ダメだ。地雷。だなこれは。
それから小一時間考えぬく。書いては消してを何回繰り返したかわからないくらいリピートした。
それで出した結論。それは!
『これからよろしくお願いします』
よし。これが無難だろう。
龍也「お、送るぞ」
動悸が早くなる。僕は重大なハッキングでもしているのか?
そして、
エンターキーを、
押した。
龍也「逃げろ!」
顔が熱くなる感覚を消すために、そのままベッドに突入して顔をうずめる。よし。これで安心だ。
目を瞑って暫く顔が熱かったが、無理やりそのまま寝た。
【TIPS#2】 サテライトクラッシュ
札幌、大通公園を襲った未曾有の事故。
政府の発表によれば、人工衛星が何らかの原因で周回軌道を逸脱し、札幌へと墜落したのだという。
それから11年。街の復興は一段落したものの、災害が残した傷は今なお深い。
建物は戻っても、人々の暮らしには、いまだ解決されていない問題が山積みになっている。




