1話 Wake up the Fake world
────雪は、しんしんと降り続けていた。
僕は、一人取り残されていて。周りは未来を見ている。
寂しかった。
怖かった。
でも。”嘘”は僕を助けてくれた。
だから始まった。
欺瞞の世界が。
◇◇◇◇◇
???「……ぉい」
???「……お~い!」
???「起きろって!」
うーん。眠い。まだ寝てていいか。
???「次移動教室だぞ……!置いていくからな」
龍也「はッ!!」
ブラックアウトしていた視界が、衝撃と共に一気に明るくなる。
口元がしけっている感覚と共に、意識が起きはじめたのが分かった。
とても寝ていた。それはもう寝ていた。
というのも、昨日は遅くまでゲームをしていた。ちょっとテスト勉強をしている時にしれっとストアを見たら新作が出ていた。
今は4月5日。ぴっちぴちの新学期だ。もちろん春休みはゲームばっかりしていたぞ。
それでついついエンディングまでやってしまったんだったな。
今日帰ったらコンプ要素をやろう。
────じゃなくて。
目の前には、いつも学校で一緒に居る女子、恋が居た。ってか恋しかいない。
龍也「ん?なんで恋だけここにいるんだ?」
恋「だーかーらー!!!!!次移動教室なんだって!!!!」
やべ。
龍也「それはまじかよ!じゃあいそがないとな~」
こういう時は大丈夫だ。なぜならこの学園、先生のやる気がないからな。ちょっと遅れてくるだろう。
僕は悠々自適に準備を始め、呆れて出て行った恋の後を追うように教室を出た。
◇◇◇◇◇
恋「ホントアンタってバカなんだね」
怒られた。なんで今日に限ってチャイム前に来てるかな~???
龍也「笑え、笑えよ……」
悔しいが無様な僕の姿をみて、きっと皆笑っているんだろう。
だってきちんとした理由がある。昨日は勉強をしていたんだ。他のボケっとしている人と違って、しっかり勉強をしていた結果、ちょっと寝るのが遅くなっただけなんだ。
嘘じゃない。僕の記憶がそう言っている。
それなのに、授業の始まりは僕が怒られるところからで、その後ず~っと居心地が悪かった。
恋「もう。元気だしてよね。龍也が落ち込んでいたらオレの調子も狂うからさ」
恋は苦笑いしながら、僕の肩を優しくなでる。そういうの逆にやめてほしいよな。どう反応したらいいかわからん。
龍也「はぁ……。購買行ってくる」
恋「よし。行ってら」
雰囲気に似合わない、突き抜けた笑顔で恋に見送られる。
……あいつ、あんなに嬉しそうに送り出さなくてもいいだろ。
居心地の悪さを振り払うように、僕は購買へと足を向けた。
◇
その、途中だった。
龍也「ん……?」
階段の踊り場。
窓から差し込む光の中に、金色の髪をなびかせる少女が立っていた。
喧騒の中にありながら、そこだけが切り取られた異世界のように静かだ。どこか儚い、今にも消えてしまいそうな雰囲気に、僕は思わず息を呑む。
なのに。
通り過ぎる生徒たちは、まるでそこに誰もいないかのように彼女を無視していく。
彼女だけが、この世界から「孤立」しているみたいに。
少女「あ……」
不意に、視線がぶつかった。
龍也「やべ、気まずい……!」
慌てて目を逸らし、ほんの数秒。
逃げるように歩き出そうとして……それでも気になって、もう一度振り返る。
そこには、もう誰もいなかった。
周囲の人々も、その少女がそこにいて、いなくなったという行動を観測していないように、そこだけが異世界であるように、変わらない日常が進んでいっている。
龍也「……なんだったんだ、今の」
踊り場に残ったのは、冬の冷たい空気だけ。
僕はその正体不明の気圧され感を引きずったまま、購買へと急いだ。
今回購入したパンは、なんとソーセージパン。これは素晴らしい。この学園で褒められる数少ないことの一つであろう。
その分、ちょっと高いけど。
物価高はきっと裏で操られている。それに耐えられるかどうかを政府が査定している状況ってのが僕の考えだ。僕はそれに屈することはない。だからこのソーセージパンを買うのだ。
……ついでに恋にチョココロネ買ってってあげるか。好きだって言ってたし。それに人気だからすぐ売り切れるからな。
◇
龍也「ほい。これあげる」
さっき買っておいたパンを恋に投げて渡す。いきなりのことに、恋は焦った表情で何とかそれをキャッチした。
恋「っと。珍しいね。龍也がこんな気の利いたことしてくれるなんて」
龍也「珍しいってなんだ!……まあ、ただの気まぐれ。それ、売れ残ってたし」
そう言っている間に、熟練の手つきでチョココロネの外包をはがし、もう食べ始めていた。
────プロか?
そんなどうでもいいことを考えながら、僕もパンを食べて午後の授業に備えて昼寝するのだった。
◇
うん。いい睡眠だった。
午後の授業はすべてスキップ。素晴らしい睡眠時間と化した。
それに、やる気のない教師の戯言など聞きたくない。自分で勉強をした方が身につくだろう。
……真面目に授業を受けている恋に4連続定期テストの点数で負けているのは内密事項だ。だが、赤点は取ってない。僕がダメというより、恋が秀才すぎるだけだ。きっと恐らくmaybe多分そう。
龍也「んじゃ、また明日」
恋に挨拶をして僕は学園から下校を始める。
帰り道は一人がいい。考える時間にしたいからな。歩きながら考えると何となくまとまりやすいし。
◇
龍也「つかれた~」
帰宅と共に、自作PCを立ち上げる。
僕のPCは自作だ。例の半導体高騰前に部品をかき集めて作ったから、まあまあのスペックで安く済んだ。
ベンチマークは9,000。これだけあればハイエンドゲーム以外いけるだろ。
欲を言えば水冷にしたかったが、流石に高い。ラジエーターはまあいいんだが、クーラントがなぁ......。
札幌且つ僕の家はコンテナハウスだ。これから来る冬は堪えるし、ケチるとダメだ。
コスパを考えて空冷式が妥当だろう。
そうしてノリノリでPCを立ち上げたその画面には。
龍也
「ビビった......。レッドスクリーンかよ」
めんどくさいことになった。どうしようか。
とりあえず電源を長押しして、見なかったことにする。ソフト面の知識は少ないから、あとでやろう。
そうして全てを投げたあと、夜中の外を散歩することにした。
この札幌の街も、少しずつ復興が進んだ。
11年前に起きた事故。サテライトクラッシュ。
周回軌道をいきなり逸脱した人工衛星が墜落し、この札幌大通公園に直撃したというものだ。
しかも、その時刻は昼。沢山の子連れ家族がその被害にあった。僕も、その一人。結果、両親を失った。
僕が陰謀論を追うのは、この事件がきっかけだ。陰謀論を追うようになってから結構いろんな知識付いたのは棚ぼただったな。
それにしても、不可解な事件はサテライトクラッシュ以外にも沢山ある。ちらっと見かけた神経症の事件とかな。
この二つには何か関係がある気がする。……根拠はないけど直感だ!直感!
話を戻すけど、周回軌道を不自然に逸脱することなんてあり得ないだろう。誰かが噛んでいる。それを暴いて真犯人を白日の下に晒してやるんだ。
まあ、今僕がコンテナハウスに住めているのはサテライトクラッシュおかげなのは事実。
少なくない被害者が彷徨うことの無いように、大通駅の近くに仮設住宅としてコンテナハウスの住居群ができた。
普通、PTSDの影響とかで離れたところに建てられるだろうが、なんかここらしい。
僕にとっては都合がいい。だから安い家賃を払って使わせてもらっている。
龍也「夜の大通は悪い意味で落ち着かないな」
眠らない町と言ってもいいだろう。近くにすすきのもある。飲み街が近いのもあって、人は行き交っているのが近所だ。
そうして歩いていると、そこには見覚えがある少女が立っていた。
少女「ご機嫌よう。真崎龍也。学園ぶりね」
そう。そこにはあの踊り場に居た少女が静かに存在していた。まるで、世界に物語を紡ぎだすように。確かに、そこに居た。
龍也「うわああああ!!!いきなり喋るな!!!」
僕はいきなり来られるのに弱い。だからホラゲとかやらないのだ。……ジャンプスケア怖いから。
それなのに、いきなり声を掛けられ、しかも初対面の人にフルネームで呼ばれたらびっくりするのは当然だろう。
────腰が抜けた……。
少女「あら。だらしないわね。這いつくばっちゃって」
龍也「おま、お前は誰だよ!??何の目的でこんな事してるんだ!??」
僕の問いかけに、その少女は妖艶に一笑み。そして、当たり前かのように口を開いた。
少女「アナタと私が目が合ったから。それだけよ」
少女「それじゃ。これから厄介になるわね。よろしく」
サクラ「あ。私の名前はサクラよ。敬称とかいらないから。じゃ」
そう言い残し、さっさと帰っていく背中が見える。
もう言い残すことはないというように余韻すら残さず歩いてどこかに行ってしまった。
龍也「なんだったんだ……?」
すすきのへ向かう酔客の足音と、冷たいビル風。
彼女が立っていたアスファルトの上には、足跡どころか、風に揺れる空気の余韻すら残っていない。
折角の感傷に浸る雰囲気が台無しだ。気分が下がった僕は、この夜の札幌から逃げるようにコンテナハウスに帰った。
……今日はその疲れから一瞬で睡魔に負けたんだけどな。
【TIPS#1】 真崎龍也
年齢:17歳
身長:169cm
11年前に発生した未曾有の大災害「サテライトクラッシュ」。
この事故で両親を失った龍也は、児童養護施設を経て、現在は被災者用のコンテナハウスで一人、息を潜めるように暮らしている。
遺族年金とバイト代をやりくりする、ギリギリの生活。
そんな彼の唯一の窓は、廃品と中古パーツをかき集めて自作した一台のパソコンだった。
彼は今、そのPCを通じて「陰謀論」に深く傾倒している。
「なぜ両親は死ななければならなかったのか?」「あの日、本当は何が起きたのか?」
世間から見れば滑稽な陰謀論も、彼にとっては真実を追い求めるための唯一の武器と言えよう。




