√サクラ 『嘘に塗れた砂上の楼閣』
……ダメだ。僕はこのコンテナハウスを見捨てられない。
ギリギリのその瞬間まで、ここに居座ってやる。絶対だ。修復してでもここに居たいんだ。
そう決心して、とにかく大事なものを避難させた。
ぶち壊れて外が見える状態なのは、恋が花見しようぜ~!とか言ってた時に買ったブルーシートでとりあえず応急処置。
龍也「なんか……秘密基地感強くなったな……。まあいいか」
次に冷蔵庫を確認。
……冷凍食品しかない。電子レンジは……使えないだろうしなあ。
そうしてこの先どうしようか悩んでいたら。
───外から、誰かが僕の家に押しかけてくる音がした。
……こんな時に、誰だ?
サクラ「ごきげんよう……。真崎龍也」
龍也「サクラ……?なんでここに?」
サクラは全く濡れていない。それどころか、この崩壊した札幌に似合わない。そんな綺麗な制服姿を保っている。
そんな彼女の眼は、何処までも漆黒に見えた。
サクラ「……貴方を、殺しに来たわ」
龍也「お前……何言ってるんだ?」
冗談だって信じたかった。しかし、サクラの手には包丁が握られている。
一体、何のために?こんないきなり……ありえないだろう!?
龍也「お、落ち着け!僕がいくら気に食わないとは言え……殺さないでくれ!!」
サクラ「こんな……こんな展開ッ!!!」
サクラは泣きながら、僕へと切っ先を突きつけてきた。
───その包丁を握る手は震えながら。
サクラ「私は……望んでなかった。貴方がこれ以上傷つくのを」
サクラ「だから戻すの。全て、最初に」
待て待て待て!!!!何があったんだこいつは……。
ひとまず、落ち着かせないと!
龍也「お前が何を言っているか……全く分からない。だから、何があったか聞かせてくれないか?」
対話できるかのチェックだ。これでダメなら僕は……逃げるしかないか。
サクラ「貴方は!この先に進んでも幸せになれないの……だから、ずっとあそこに居て。それが、私の使命だから」
龍也「……サクラ。それは……僕を案じてくれているのか?」
僕のつい出てしまったその問いかけは、サクラの心に深く刺さったようで、ぐちゃぐちゃの泣き顔に変わっていった。
サクラ「……うん」
遂にサクラは泣き崩れて、包丁を手放す。
……それを見て僕ができることは、ただサクラを抱きしめてあげることだけだった。
◇◇◇
暫くして。サクラは赤くなった目を擦りながらいつもの調子を取り戻そうと虚勢を張り始めた。
そこには、いつもの人を振り回すおてんばさなど皆無だったけどね。
サクラ「見苦しい所を見せたわね。忘れなさい」
龍也「ああ。善処するよ」
それにしても、なんでこんなにいきなり。
サクラがここまで荒れることなんて、今まで無かった。たまに家に来てはご飯を食べたりしていたあの雰囲気が嘘のようだ。
龍也「……何があったか、聞いていい?」
正直、理由を聞くのは怖かった。でも、だとしても。僕を案じてくれた結果”ああ”なった理由は……見過ごせないよな。
サクラは案外すんなり頷いて、僕へと向き合う。
サクラ「隠していたことが……あるの」
サクラ「龍也……貴方は、普通の人間じゃない」
僕が……普通の人間じゃ、無い?
龍也「何……言ってるんだよ?僕は、ほら、何処にだっている痛いオタクで、人一人傷つけられないような腰抜けだぞ?」
サクラ「気づいていないふりをしていただけ。貴方は……自分自身に、完璧に嘘を吐ける。記憶さえ上書きして」
……完璧に嘘を吐ける?記憶の上書き?なんだよ……どんなSF展開だ?
手が震えていることに気がつく。そんなこと、あってたまるかって頭を振る。
でも。それに心当たりがある自分が、今は何より恐ろしく感じた。
サクラ「貴方はたくさんの嘘を吐いた。自分自身にだけ。自分を守るための嘘を。私は、記憶を失う前の貴方に、その嘘を守ってほしいと願われたの」
サクラ「だから。貴方が作った日常を守っていた。それが真実」
龍也「は、はぁ?全く……意味が……分からない」
こんなの、おかしい。
こんな良くわからない展開……嘘だ。あるはずが……。嘘。
サクラ「ほら。また嘘を吐いたでしょう。そうやって、現実を嘘にすることで、龍也。貴方は何とか生きていたの」
サクラは呆れたように、僕をベッドに寝かせた。
頭が割れるように痛くて。体がだるくなるのを知っていたように。
……サクラ。君は一体……なんなんだ?
疑問は熱を帯びた僕の脳みそからオーバーヒートして、そのまま置かれたままになってしまった。
◇◇◇
龍也「うう……ん?」
真っ黒だった意識が、少しずつ浮上していく。
何があったか、断片的にしか思い出せなくて。それがどこかもどかしかった。
サクラ「おはよう。真崎龍也」
ああ。そうだったな。
僕がコンテナハウスを直していたら、サクラが押しかけてきたんだったな。
サクラ「貴方が断片的に真実を知ってしまった今、私は使命を果たせない。だから、とことん付き合ってあげるわ。”果て”まで。ね?」
龍也「……なんだよいきなり。厨二病か?」
なんだかこんな話、結構前にしたな。それも何だか懐かしく感じる。
さて。この極限状況で、僕はサクラとどうしていこうか!
サクラ「それで?次はどうしたいのよ。龍也」
正直、ワクワクしている自分を抑えて、頭をフル回転させる。次に何をしようかなと。
その視界の端に。
もう一度。
レッドスクリーンが映っていた。




