βEND 『アネモネを食べつくす怪魚』
俺の人生が、龍也に染められたのはあの日からだった。
俺は昔から、可愛いものが好きでぬいぐるみと一緒に毎日居て。そしたら、気持ち悪いって幼稚園でいじめられていたんだ。
それを言うのが一人、また一人って増えていって。最後は周りがそう言ってるから、俺が気持ち悪いって。そうなってた。
そんな中、変わったやつがいて。持ってきていたぬいぐるみを「可愛いね」って何食わぬ顔で言ったバカが顔を上げるといたんだ。
それが龍也だった。
周りが同調圧力に負けていく中、一人だけ自分が見たものしか信じないとか言うような変な奴で。
何より、その姿勢が、その時の俺の助けだった。
でも、そんな龍也が珍しく幼稚園を休んだ日。
サテライトクラッシュが起きた。俺はたまらず病室に駆けて行って、毎日龍也の顔を見た。
そしたら、いつからか俺のことをヒロインだって。そう言ってきたんだ。
それがたまらなく嬉しくもあり、本当の自分を見てくれていないのが悲しくもあり。だから。それを演じるのが、俺の人生なんだって思った。
俺の、初めての友達は、俺の全てだったから。
恋フェイクエンド-FIN
───いや、詮索は良そう……。あんな顔をする恋は、もう見たくないからな。
そして、僕は自分の作業へと集中した。
とにかく、生き残ることを大事にしないとな。
何か聞きたくなっても、死んでしまったら元も子もない。
うん。落ち着いたら聞こう。そうしよう。
……さて。まずは情報を集めようか。
なんと、学校の備品を確認したら恐らく工事の時に忘れていったであろう安全靴が何個かあった。
それを使って、外の状況を把握する。
そして、電波があれば内地の状況を確認する。……よし。恋を呼び出してから出発しようか。
龍也「恋~?そっち終わったか?」
恋は僕の声を聴いてすぐ作業を止めた。そろそろ来るってわかってたみたいだな。
恋「よし。じゃあ行こうか」
そして僕たちは安全な格好をして外に出た。
◇◇◇
恋「わかっていたけど、酷い有様だね……」
改めてみる札幌の景色は、まさにポストアポカリプス。終わった街と言っても過言ではないほど荒廃してしまっていた。
そんな現状に少し心が痛くなりながらも慎重に歩みを進める。
龍也「……いくつかのショッピングモールはギリギリ崩落してないから、物資の補給ができそうだな」
恋「そうだね。でも、だいぶ危険そう。大人の人を何人か編成して、大人数で行かないと……」
暫く歩いて分かったのは、不自然なほど電波と電気が断絶されているということだ。
この調子じゃあ、発電所もダメになったみたいだな……。
……うーん。何もない。
恋「そろそろ帰ろうか。もう日が落ちそうだし」
龍也「そうだな」
結局、めぼしい情報は手に入れられなかった。
何か手掛かりになる物だけでもあれば……。しかし、これ以上の探索は危険だな。
そうして帰ろうとしたその時。
恋「龍也!!危ない!!!」
空を見上げると、ビルから瓦礫片が降ってきた。
既にすごいスピードで、僕の身体へと襲い掛かってきている。これは───死ぬ?
ドスンと。僕の身体が吹き飛ばされた。
しかし。その拍子に瓦礫は僕の足へと直撃する。尖っている瓦礫が足の肉を削いでいった。
龍也「……ぁぁぁああああああ!!!!!!!」
痛い……。とても痛い……!!!
恋「大丈夫……大丈夫だよ……。今止血するから……!!!」
恋が手際よく、自分の服を千切って包帯代わりにしていく。その甲斐もあって何とか血は止まった。
龍也「ごめん……僕の不注意だった……」
確かに血は止まった。でも、僕の足は正直動かせたものじゃない。
ここから学校へと戻ることは……出来ないだろうな。
恋「ううん。生きていてくれてればなんでもいいって。気にすんな」
恋はそう言いながら肩を貸してくれた。しばらくは近くの屋内で泊まらないとな……。
◇◇◇
それからちょっとした後。
幸い、近くにはスーパーマーケットが見つかった。
僕と恋はそこで一夜を過ごすことを決め、適当に食事をして今に至る。
恋「明日からどうしようか。……いち早く、龍也をちゃんと治療してあげられればいいんだけどね」
龍也「……迷惑かけて、ごめんな」
恋「馬鹿。あれは龍也のせいじゃないだろ。こういう時ほど、ちゃんと頼ってよ」
その言葉が、落ち込んだ僕の心に沁みる。
そうだな。ぐちぐち自分の失敗を言ってられないな。よし。
気合を入れ直し、僕は恋へとちゃんと向き合う。
龍也「1つ、思ったことがある」
龍也「札幌がこのありさまでも、函館方面ではもう救助が始まってるんじゃないかってね」
その発言に、恋もハッとした様子だった。
正直、これは賭けだ。でも、僕の足が壊死する前に何とかするためには……この賭けに乗るしかないだろう。
龍也「明日、起きたらさ。転がってる車を拝借して、旅に出ないか?二人で」
恋「……うん。わかった」
◇◇◇
翌日、未明。
僕と恋は行動を始めた。二人で逃避行と行くためにな。
恋「この車……。キーが刺さってる!」
車は簡単に見つかって、恋の運転で函館まで向かう。
道中は酷いものだった。しかし、なんと高速道路は生きていた。だからそのまま突っ切って函館まで一直線に向かう。
龍也「避難できたらさ……しばらくここには戻ってこれないかもな」
恋「そうだね。後悔してる?」
その答えなんて。とっくに決まってる。
龍也「んなわけない。恋。お前とならどこ行っても生きられるよ」
恋「……え」
言葉にしてから、自分の発言がとんでもないことに気づく。
───でも、それが本心だったから。だから。
龍也「恋。一緒に生きようぜ」
それが、僕にとっての不器用な告白だった。
龍也「……その。嫌だったか……?」
無言で前を見ている恋。ふと、一呼吸して。それから持っていた何かを切り捨てるような気がした。
そして、僕を見て言葉を紡ぐ。
恋「……あはは。プロポーズされちゃった?」
恋「ありがと。これで決心できた。こんなワタシをよろしくね。龍也」
これから始まるんだ。
そう心に留めて。崩壊した札幌を背に向ける。
行こう。二人の未来へ。
◇◇◇
龍也「───なんて意気込んで、楽しかったな。」
僕と恋が札幌から逃げて、もう五年になる。
僕たちは今、仙台で一緒に暮らしているんだ。結局、函館では救助は行われていなかった。
足は結局壊死して、使い物にならなくなった。
でも、二人で生きていられたからいいんだ。
恋「ごめん……また……強く当たっちゃった……」
恋がまた泣いている。
ずっとそうだ。恋はいつからか、急に不安定になりだした。それから、僕を殴る時もある。
でもいいんだ。
一緒に居られれば、それでいい。
そう言えば……不安定になりだした時、恋は薬を飲んでいたな……。
エストロゲンとか書いてた気が……。まあ、そんなのどうでもいいか。
僕は、恋に迷惑をかけないように生きているだけでいい。それ以上は贅沢なんだ。
僕は、恋と居られれば……。それでいいから。




