αEND 『真実と嘘のラヴメモリー』
───やっぱり気になる。このもやもやを無くしてしまいたい。
そして、僕は恋の元へと駆け寄っていった。
恋「……アレ?どったの?龍也」
僕の姿に気がついた恋は、作業を中断して僕に向き合ってくれた。
ただ、1つのことを聞くのに。それだけなのに、心臓の鼓動がうるさい。手が若干震えている。
───それでも。僕は知ることに決めたんだ。
龍也「聞きたいことがあるんだ。二人きりで、……話さないか」
恋は僕の考えてることを洞察したようで、神妙な表情をした。そしてそこから一呼吸。
恋も、そのことについて向き合う覚悟をしたらしい。
恋「……わかった。それじゃあ、屋上で話そうか」
僕はその言葉に頷き、屋上へと赴いた。
◇◇◇
屋上から見える風景は、もともとあった綺麗な光景から一変していた。
遠くでは火事の残骸が残っていて、あれだけ煌々としていたネオンは一切ない。その雰囲気に、もう一度ことの重大さを思い返す。
それから、僕たちはフェンスに腰をかけて話し始めた。
龍也「なぁ。恋。サクラについて、何か知っているのか?」
変な詮索はこの際やめた。
真っすぐ、ただひたすら愚直に思ったことをぶつける。
恋「初めて聞いたのは、あのサテライトクラッシュが起きた、ちょっと後くらいだったよ」
恋「龍也は、毎日その間泣いていて。オレの言葉なんて、全く聞いてくれなかった」
恋「……そんなある日、病室でキミはどうしていたと思う?」
恋「───ずっと、虚空へと”サクラ”って声を掛けていたんだ」
恋「その二日後。急に記憶喪失になった。だから……また、龍也が離れて行くんじゃないかって。そう、そう思って……」
……初めて、僕は恋の涙を見たかもしれない。
ずっと、僕の前に立って連れて行ってくれた恋が、今は凄く小さく見えて。思わず抱きしめてしまった。
龍也「大丈夫だ……。今の僕は、記憶喪失になんかならないさ」
何の根拠もない強がり。それでも何か声を掛けたかった。
恋「ねえ、龍也。オレの……本当の姿、まだ見えないの?」
本当の……姿?
龍也「何言ってんだ……恋は、恋だろ?本当に何言ってるんだよ……?」
僕の知る恋は。
いつだって、男勝りで。
いつだって、僕のことを心配してくれる大親友で。
いつだって、傍に居てくれる。昔からの、相棒で───。
そんな、1人の”女の子”のハズだ。
恋「ゴメン。でも、もう……。これ以上は演じたくないんだ」
龍也「な……!」
恋は僕の手を握って、恋自身の胸に宛がった。
そこには、女子のような柔らかい胸はなくて。僕と一緒の、厚い胸板があった。
恋「あはは……。驚くよな。だって、ずっとオレを”幼馴染の女の子”って、そう思って過ごしてきたんだもんな」
恋「俺は、男だよ。龍也」
その”真実”に、僕は耐えられなくなって。
頭が沸騰する感覚と共に、僕の意識は底に落ちていった。
◇◇◇
龍也「……はっ!?」
恋「……アレ?どったの?龍也」
───今のは……なんだったんだ。
恋が、男?いや、でも、目の前にいる恋は確かに女だろ……。胸だってあるし、何より骨格が違う。夢だったのか?
そんな白昼夢、あってたまるか……。
こんなデジャヴ。趣味が悪すぎるぞ。
龍也「……いや、何でもない。ちょっと、様子見にきただけだ」
しばらく、僕は恋の真実から離れて共に過ごした。
でも、一度気にしてしまったことは思考にずっと気持ち悪くへばりつく。
そんなこと、ないハズだ。
一ヶ月。
一ヶ月経った。未だ救援は来ない。
前までなら、陰謀を疑っていただろうけど、今の僕にそんなこと気にする気力は無かった。
そして、嫌なことに気づいてしまった。
絶対気づきたくないことに。
それを気づいてしまった自分の気持ち悪さで、自己嫌悪がピークに達している。
龍也「あはは……。恋は、一ヶ月ずっと元気なんだ。隠しているとかなく、ずっと元気なんだよ」
そう。
恋は、生理周期が無い───。そんな、そんな当たり前に気づいてしまった。
女子として生きる恋という僕の認知と、事実として現実的になった男としての恋という矛盾点が、僕の頭に突き刺さる。
欺瞞と真実がぶつかり合い、僕の脳を搔き乱した後。
世界が、真実へと上書きされた。
龍也「ぁぁぁああああああ!!!!!!!」
恋「龍也!?……大丈夫!?ねぇ!?」
恋の声は、やっぱりいつもと違って勇ましかった。
苦しみながら顔を上げると、そこには。青い髪をした幼馴染の女の子は居なくて。遠い過去に見覚えがあった黒髪の男の子がいた。
龍也「……恋。お前は……そんな顔してたんだな」
恋「……まさか。龍也、俺のこと。ちゃんと見えて……?」
僕は。ずっとこれをしていたんだ。
恋の真実は、男で。それを都合よく、女だと知覚して。
そう思った瞬間。僕の中で何かが壊れた。もう、二度と戻らないほど、ぐちゃぐちゃに。
龍也「……ああ」
やめてくれ。そんな笑顔、見せないでくれ。
もっと怒ってくれよ。僕がしたことは、決して気持ちのいい物じゃない。そうだろ……。
恋「もう、演じなくていいんだ……。そっかぁ」
恋はどこか名残惜しそうに、そう呟く。
その言い方だと、女だと思われて嬉しいみたいじゃないか。そんなの、そんなの!!!
僕は自分が許せなくなって、腕を掻きむしった。
恋が必死に止めてくる。なんで。
なんで!!!!
龍也「なんでだよ!!!!!!!?????」
周囲の人が僕の声を聴いて驚いている。でも、そんなの。今はどうだってよかった。
龍也「僕がしたことは、恋のことを軽視したようなことだ!!!」
龍也「もっと怒ってくれよ……。」
恋は僕の抗議に対して、無言で手を掴むだけ。
だけど。僕は、もう……。恋に苦労させたくないと。もっと自己嫌悪が酷くなる感覚がはっきりした。
◇◇◇
……僕は今。隔離されている。
あはは……。当然だろうな。だって、突然暴れだした狂人なんだからな。
その隔離された教室が、いつも登校していた自分のクラスなのは、なんて皮肉だ。あの日常も、ずっと演じさせていたんだな。
そして、自分で付けた傷は更に増えた。
ふとした瞬間に衝動が止められなくなって気づいたら手が血だらけになっている。
本当に、何やってるんだろうな。
恋「龍也ぁ!!!」
……恋?
多分、周囲の反対を突っ切って僕のところに来たんだろう。
でも、その顔を見ると。もっと胸が苦しくなるんだ。やめてくれ……。
龍也「……何しに来たんだ。こんな、僕のところに」
恋が焦って僕の元へと来る。その顔は、いつもの恋だった。その事実に気づいた時、僕の凍っていた心が少し解け始める。
……僕がしてしまったことは。自分では許されないのかもしれない。
でも。
恋の気持ちを、僕は知りたいと思ってしまった。
だから、言わないと。
恋「もう、そんな思い……させたくない。」
恋「ゴメンね。龍也……。でも、これしかなかったの。俺が思いつく、唯一の償いは、これしか……。」
声を、出せよ。
もう一回、男同士として。いや、そんなの関係なく、もう一回やり直したいから。
声が、出ない。
沢山叫んで、沢山暴れた結果、僕の声はとうに枯れてしまって出ない。
恋「ちょっと痛いだろうけど、大丈夫。大丈夫だよ。昔聞いた話だったら、龍也ならこれで忘れられるって」
恋が持っていたのは改造されたAEDだった。それを僕の頭に付け始める。
……やめてくれ。自分勝手だって思っても。僕はこれを。この気づきまでも嘘にしたくない。
そして、僕の頭に電気が流れ。
僕の意識は底へと堕ちていく。全て、忘れて、幸せだった頃へ。
何だったっけか。
何を悩んでたんだろうか。
まあ、いいだろ。
僕は、もう一度欺瞞の世界に。
───戻ろう。
ずっと前。僕が、まだガキだった頃。
お父さんはゲームが好きで、良くいろんなゲームをしていた。
その中で、まだ早いって言われていたゲームが、僕にはすっごく憧れの物に映ったんだ。
それから、こっそりと毎日、お父さんが寝た後にそのゲームをプレイした。
その時はまだ、よくわからなかったけど、それはノベルゲームだった。その一本のノベルゲームは、僕にとって衝撃だった。
───人が死んでも。
───好きな人がめちゃくちゃになっても。
その主人公は立ち上がって、ハッピーエンドへと突き進む。
そんな生き様が、僕にとってすっごくかっこよく見えて。そんな人生が送りたいだなんて、そこまで思っていたんだ。
だから、”アレ”が起きた。
僕と言う物語の因果を捻じ曲げてでも作り出す”アレ”が。
そして、当たり前のように願ったことに、僕の親友は巻き込まれたんだ。性別すらも捻じ曲げて、物語の因子にしてしまう。
───そんな、僕の能力に。
恋トゥルーエンド-FIN




