√篠崎恋 『友情を繋ぐ苦肉の嘘』
一番ベタで安牌なのは学校だろうな……。道も覚えているし、不安が無い。
そう決意してからパパっと荷物をまとめて、簡易避難セットも取り出した。こういう時こそ落ち着いて。だな。
龍也「ごめんよ。マイPC。いつか復旧するからな」
とにかく緊急事態だ。パソコンにかまってられない。今は三人の心配をしなくては。
変わり果てた通学路を慎重に通る。
ひしゃげた信号機を見るたび、起きた事実に戦慄してしまう。こんな未曽有の大台風……。えげつないな。
龍也「いてぇ……」
隆起した地面を踏んで、足を傷つけてしまう。
安全靴でもあったら良かったんだけどな……。流石に持ってないよ。流石にね。
何とかその道を通り、学校へと着いた。
見る感じ、やはり家族連れが多いか……。誰か居てほしい。この状況で一番恐ろしいのは孤独だ。頼む。誰か……!
恋「大丈夫だったか!?龍也!」
後ろから声を掛けられた。安心する声だ。
この状況でやっぱり思い知らされる。恋の頼もしさったら無いな。
龍也「ああ。なんとかな」
恋の格好からして、避難しに来たというより巻き込まれてここにいるという感じだった。
服装もいつものオシャレな格好だし、やっぱりそうなんだろうな。
恋「良かった……。心配したんだぜ。本当に」
龍也「僕のことより、真莉は大丈夫か……?」
心配になるのは真莉だ。学校に居ないということは、避難所にいるんだろう。普段から見るハザードマップで言うと、学校から反対側にあるはずだ。
無事、避難できているといいんだが……。
恋「真莉ちゃんからは連絡来たよ。避難所にいるってさ」
龍也「そっか……。とりあえず一安心だな」
真莉の無事は確認できた。それなら、今は二人で何とか乗り切ることを考えないとな。
コイツとなら、何とかなるだろ。僕と恋のタッグは最強だからな!……って言っても、ほぼ恋の能力依存だけど。
龍也「よし。じゃあ設備の設置とか手伝いに行こうぜ。できることをやってこう」
恋「そう言うと思ったよ……。じゃ、まずは運営のところ行くか」
と言うことで先生や職員が集まっている所まで来た。皆あわただしく動いていて、やっぱり人手が足りないみたいだな。
さて。じゃあ声を掛けるか。もちろん、恋がな!
そう心の中で思うとともに、恋が前に出た。
恋「すみません。オレ達手伝いに来ました。何かできることってありますか……?」
職員「ああ。助かるよ。じゃあ、あっちのパーソナルスペース作りを手伝ってくれ……。段ボールがあるからわかると思うから」
恋「わかりました」
ササっと恋が仕事をもらってきて、僕に目配せする。よし。じゃあ段ボールベッドを作りに行きますかね。
僕と恋はすぐ着手した。仕事としては単純で、ただただたくさんのキットを組んでいくだけだ。
でも、工程が多いのもあって会話が無い。しばらく隣でそれぞれの仕事をこなすだけの時間。思えば、恋とはずっとこんな感じだったな。
……話したいときに話して、それ以外はただ居るだけ。それが僕にとって心地よかった。
真莉が転校してきて、サクラが割り込んできて。しばらく二人きりでこうずっといる時間は少なくなった。
それで時折、恋は何かを訴えかけるような目をしている。……恋は、僕のことをどう思っているんだろうな。
龍也「なあ……恋」
僕は無意識的に恋に声を掛けていた。特にこれと言った用もないのに。
恋「ん?どうしたよ」
龍也「最近、楽しかったよな。真莉が来て、三人で居ることが増えてさ。二人だけじゃ、しにくかったこともできたし」
恋「まあね。真莉ちゃんいい子だし、龍也が振り回しても文句言わないからさ。そんな子なかなか居ないからな?」
言ってくれるよ。振り回してるだなんて。
まあ、少しそんな感じは自分でもしたけど……。でも、楽しんでくれる顔を見るとしたくなるんだよな。
龍也「……避難生活終わったら、会わせたい人がいるんだ。最近、仲良くなった子がいてさ。サクラっていうんだけど……」
僕が、サクラの名前を出した瞬間。なぜか恋は焦って僕を押し倒した。
恋「……龍也。もう一度言って。サクラって誰?」
瞳孔が開き切っている……。恋にしては珍しく本当に何かを恐れているように。
僕の手首が、白くなるくらい握られた。恋がこんな事するなんて……。なんで。なんでなんだ?
恋「……いや、ゴメン。何でもない……。忘れて」
そして恋は顔を青くして身を引いた。
それからパーソナルスペース設置が終わるまで、気持ち悪い無言の時間が続いてしまった。
◇◇◇
無言の時間の中、恋はちらちらと僕の方を心配そうに見ている時があった。
そんなに僕って……変な顔してるかな?
でも、僕から何かを言い出せる勇気もなく、そのまま時間は流れてしまっている。
……本当に、大丈夫なんだろうか。そんな不安が一気に押し寄せてきた。僕が、僕が何とかしないといけないのに何もできないことが悔しくて爪を噛む。
そんな調子が1週間続いて、恋はどんどん目の下の隈を濃くしていった。
それを見るたび、心がキュッとする気分になってしまうのは必然だろう。……クソ。
そしてふと恋の方を見ると。
龍也「おい恋、そっちは男子トイレだぞ?」
ふらふらと、恋は男子トイレに向かっていく。今までこんな恋は見たことが無い。本当に滅入っているのか?
恋「何言ってんだよ……って、いや。えっと。違うな。あはは……ゴメンゴメン」
強がって笑っている恋。その表情を見ると、とっても胸が苦しくなって───。
気づいたら、僕は恋の元に駆け寄っていってしまっていた。
僕は恋がどこにも行かないように。強く。ここにいるようにと手を握りしめた。そのまま、恋の目を見つめて真っすぐ言葉をぶつける。
龍也「僕は……恋がなんでそんなに追い詰められてるかわからない。でも、僕は!僕は……そんな恋を放っておけないよ」
恋「久しぶりに、その目をオレにしてくれたな……って言っても、昔のことだし覚えてないか」
恋はそのまま、ちょっとの涙を拭って吹っ切れたように笑みを浮かべる。
その笑顔は、やっぱり僕にとっていっつもまぶしくて。いっつも隣にいてくれた恋だった。それが、純粋に嬉しくもあり、気恥ずかしくもあった。
───でも、悪くない気分だ。
恋「ほら、復活のグータッチ」
龍也「ああ。グータッチ」
拳と拳が合わさった。それは再び、二人で戦う証であり、この先の希望を照らしてくれる。そんな気がした。
◇◇◇
元気になった恋は獅子奮迅の活躍を見せる。
……えぇ。流石に引くよ。これは……。両手で数え切れないほどの言い争いをなだめて、それで子連れの方のサポートまでしているし。
龍也「まあでも。それが恋だな」
しかし、気になることも残っている。それはサクラのことだ。
僕がサクラのことを言った瞬間、恋は血相を変えた。何があったか知りたい。どうしてもそう思ってしまう僕がいる。
龍也「……どうしようか」
龍也が選んだ選択は───
・【サクラについて聞く】
αEND 『真実と嘘のメモリー』
・【サクラについて聞かない】
βEND 『アネモネを食べつくす怪魚』




