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無可有郷のスーサイド  作者: 一ノ瀬隆
瀬ノ内真莉『貴方は私の光だった』

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14/20

βEND 『主よ私を今ひとたび救いたまえ』

普通に止めても、俺が負けて終わりだ。


周りの大人は、皆精根尽きて止める気力もない。


なら────。


龍也「覚悟を決めろ。俺」


もう。いいんだ。自分なんて、真莉の命に比べればゴミも同然だ。


俺は持ってきて温存しておいた2Lのペットボトルを握りしめる。大人の男といえ、衰弱しつつある状況だ。これでぶん殴れば────。


龍也「クソがあああ!!!」


思いっきり振り下げたペットボトルは、男の頭に直撃し、そのまま手から滑って吹き飛ぶ。

これでいい。ひるんだ。


「何しやがるんだ!!!」


「あの女がちょっと泣いているからって、英雄気取りかよ?一人くらいくたばってももう関係ないだろ!!」


その一言が、俺の何かを壊した。


体が慄く。ぶるぶると震える。

邪魔だ。すごく邪魔。目的遂行に邪魔なんだよ。その震え。


緊張から、足が固まっている。でも、そんなの関係ないだろ。


龍也「ああああああああああ!!!!」


自分の体なんて気にせず、その男目掛けてタックル。その肘は男のみぞおちに入ったようで、思いっきり後頭部を打ち付けて転んだ。


────今だ。


龍也「死ね。死ねよ。死ねよ!!!!!!!!!!」


思いっきり倒れた男の首を絞める。脈が蠢く。なんて不潔だ。なんて気持ちわるい。


次第にその脈は弱くなっていってる。ざまあみろ。


そして、静かになった。


よかった。


もう。


静かだ。


龍也「真莉、逃げるぞ」


もう、いられなくなった避難所を俺と真莉は去った。もう、戻ってくることはないだろう。


◇


僕と真莉は、文字通り逃げるようにこの潰れたコンテナハウスに戻ってきた。

もう、避難所に戻る事は出来ないだろう。僕がやってしまったことを考えると当たり前だ。


さっきまでの僕はおかしかった。自分で自分を止めることができなかった。今までの自分が、嘘だったかのように体が動いていた。


......どう、断罪されればいいんだろうか。


今もまだ、手の中で命が潰える感覚がする。

真莉を守るためにやったこととはいえ、殺人は殺人だ。あいにく僕は、サイコキラーじゃない。


罪悪感が、背筋を伝っている。

いっそ、ここで真莉に殺してもらおうか。


そう思い、振り返るとそこには、いつもの真莉は居なかった。目は僕の脳みそを直接覗いているような、そんな狂気を感じる。


真莉

「龍也くん。あなたはやっぱり、私のために生まれ、降臨した神だったんだね」


龍也

「真莉……?何を言っているんだよ?僕は────」


僕の声を遮り、真莉は僕の右手を両手で抑える。


真莉

「ねぇ。龍也くん。私はね。あなたに救われたの。それも、二回」


真莉

「サテライトクラッシュ、あれはあなたが引き起こしたんでしょ?私、見てたの」


「死体が飛び交っていて、血があの綺麗な大通公園を染め上げた中心にあなたは居た。罪人を断罪する執行者として」


「おかげで、私は虐待の日々から離れることができた。お父さんは、その時に肉塊になった。ざまあみろって思ったの。そして、顔をあげたらあなたが泣いていた」


「ありがとう。生まれてきてくれて」


明らかに正気じゃない。もう、僕すら見ていないように言葉を紡ぎ続けている。


真莉「見てほしいの。私の本当の姿を」


真莉は虚ろな目で、僕の部屋に転がっていたカッターを拾い上げた。

そして、頑なに見せようとしなかった右手を、ゆっくりたくし上げて見せる。


その腕は────彼女の歪みをそのまま表していた。

無数に刻まれている、刃物の傷跡。中には、縦に走っているのもある。綺麗な肌を汚すように、亀裂が走っているのだ。


その中に、一つ新しい傷がある。最近切ったものだろう。その傷は、ただ傷跡を見ただけ以上の感情を植え付ける。

憎悪や、感傷全てを、たたきつけられたような嫌悪感に支配される。


喉の奥がつっかえる。見てはいけないモノを直視し続けているからだ。


真莉「汚い腕でしょ?でも、これが私なの。こうやって、切ることでしかまともに生活できないダメな人間なの」


真莉「でも、龍也くんなら、受け入れてくれるよね?」


真莉は淡々としゃべっている。それがさも当然かのように。でも、それを受け入れようとしている自分もいる。

常識が壊れていく音が、頭の軋みと共にする。


真莉「切って。縦に」


真莉「この横の傷を、十字架にして」


真莉「私を、救う神になって」


腕が、全身が、震えている。頭が現実を拒否しているのが分かる。ものすごい吐き気だ。

ここ数時間の緊張と合わさって、思考がまとまらない。僕は何を言われたんだ?


告白?


それとも、それ以上か?


僕は、何のために生まれてきたんだ?


何もわからなくなる。僕はのうのうと生きていると思っていた。でも、結果沢山の人を殺し、一人は直接殺したみたいだ。


でも、一つ分かる事。


真莉は、その僕を受け入れているんだ。


救いが欲しいんだ。


真莉は僕を、神を見るような目で覗いている。それに答えることくらいしか、自分の人生残っていないみたい。


それだけで、いいんじゃないか?


もう。考えたくない。


一緒に、堕ちるか。


龍也「ああ。わかった。貸してくれ」


カッターの刃を取り出す。怖いな。鋭利だ。


その刃を、真莉の右腕に突き立てる。そうしたら、ぷくっと血が膨れ上がって出てきた。


血はキライだ。


でも、これは別。儀式だ。


刃を下ろしていく。


肉を切っている感触が伝わる。気持ち悪い。


真莉の顔をちらっと見る。


恍惚としている。やっぱり、僕のしていることは正しいんだ。これしか、真莉を助けられないみたいだから。


刃が途中で止まる。手が震えて力が入っていないみたいだ。


龍也

「っ……か、ぁ……あああ!!」


頭が割れる。脳漿が飛び散っている幻覚が見える。


理性が告げているようだ。『やめろ』って。


殺せ。そんな理性。


真莉

「ごめんね。龍也くん。でも、今のその表情。好きだよ。私を想ってくれているみたい」


殺せ。自分を。


苦しい。酸欠か。


じゃあ、頭を無理やり働かせればいいだろ。


僕は止まったカッターを振り上げ、自分の腿に突き刺した。


痛い。でも、真莉だってこの痛みを感じている。同じ痛みだ。


それが今は、無性に心地いい。


龍也

「は、はは……。大丈夫。今やるよ」


考えがクリアになる。雑念が消えうせた。

これなら、手が動く。


そして、残った半分の傷を、真莉に付けた。


全てが終わったそこには、赤く染まった腕と、僕たちを繋ぐ傷跡があった。


これが、幸せの象徴か。


真莉

「私ね。龍也くんが好き。だから、ずっと一緒に居る方法を思い付いちゃった」


「イヤなら、私を殺して、ここで終わらせてね」


嫌じゃない。もう、いいんだ。

僕は死ぬまで、君の神として、道化になる。


それが、”僕”と言う人間の、正しい在り方だ。


そして僕は、正気をどこかに捨てて。


────真莉が押し倒してくるその行動を、静かに受け入れた。

私はいつも夢に見ていた。あの時の光景を。


ずっと暗かった毎日が、壊れる音がして。嬉しかったから。

死体の積みあがっていくその頂点で罪人を涙を流しながら裁くように存在していた男の子が、私は大好きになってしまったのです。


私は小さい頃に、お母さんを失った。

理由は何だったか、そんなの覚えてないけど。その後からお父さんはおかしくなっちゃった。


私を殴って。そして泣いて謝る。その繰り返し。それが私の全てだったし、普通だった。

友達もみんな居なくなった。血が付いて汚いから一緒に居たくないって。


でも、ちっとも悲しくなかった。普通だから。それが私の運命だから。


そんなある日。お父さんは珍しく機嫌が良くて。珍しくお洒落して大通公園に向かって行った。

新しいお母さんができるぞって。


その時には私は何も考えないようにしてたから、その人も私の敵が増えるんだってぼんやり思ったんだ。


そして、全部が壊れた。

『真崎龍也』という私だけの神様が、全部を壊してくれた。


なんで、その人が龍也くんだってわかったか、それはわからない。でも、頭にすっと入ってきたの。龍也くんの全てが。


その後、私は孤児として帯広まで飛ばされちゃったけど。その毎日は焦がれていた。高校は札幌に戻るって。

龍也くんに会いに行くんだって。だから、それからの中学生活は、すっごく楽しかった。


色々あったけど、今は幸せです。子供も今2人できました。パパは毎日私のために色々頑張ってくれてます。

だから二度と会いたくないお父さんに向けて、この言葉を送ります。


『ずっと死んでいてください』


真莉フェイクエンド-FIN

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