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無可有郷のスーサイド  作者: 一ノ瀬隆
瀬ノ内真莉『貴方は私の光だった』

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αEND 『永遠を取り戻すあの景色』

周りの大人を頼るしかない……!とにかく、今は周りの大人を焚きつけないと!

片っ端から周りの大人に声を掛ける。あの男が真莉を襲うと嘘をついた。その嘘は波及して、真実となる。後は大人の勝手な正義感で事は片付くはずだ。


龍也「真莉!!!」


周りが男を抑え込んでいる隙に、僕は真莉の元へ駆け寄る。

───しかし。既に真莉の目から光は失われていた。何処までも深く、何処までも落ちていきそうな漆黒の目に、僕は取り返しのつかないと悟ってしまう。


龍也「ね……ぇ。真莉……?僕だよ。龍也だよ」


だが、真莉は口をぱくぱくするだけで何もできていなかった。

こんなの……。こんなのは!!!


くやしさから、僕は何度も床を殴りつける。手から血が出たが、今の真莉の心の傷に比べたらこんなの掠り傷だろう。


真莉「……やっぱり。私は……」


その言葉が、僕の聞いた最期の言葉になった。


◇


次の日も。その次の日も。次も次も次も次も次も次も次も次も次も次も次も次も次も次も次も次も次も次も次も次も次も次も次も次も。

真莉は一言も喋らない。


どれだけ経っただろう。何人も飢餓で死んだ。次から次へと死んでいった。

でも。僕は真莉の隣に居続けた。僕がしてしまったから。僕が、真莉を救えなかったから。


そして。あの台風から一ヶ月が経った頃。救助が始まって。僕は。いつもの様に起きて。真莉を介護する───す……る。


いつも真莉が居た段ボールベッドに、真莉は居なかった。最後に見た、真莉の顔に生気がないことを思い出す。何かに……追い詰められていたようだった。


……まさか。


最悪のシナリオが頭の中に組みあがり、気づいたころには喉が自分の制御を外れて声を出す。


「ぁ……ああ。ああああああ!!!!!!!」


僕は夢中になって避難所を飛び出していった。


久しぶりにまともに見た札幌は死の街へと既に変わっていることに嫌でも気づく。地面は隆起し、ビルが崩壊している。でも、それを包むように、雪が積もっていた。

あっちにも雪。そっちにも雪。


沢山の雪が積もっている。でも、不思議と道には積もっていない。だから沢山走れる。


───居ない。


───ここにも居ない。


楽しかった日常の光景がボロボロになっている現実を、脳が拒否していく。


龍也「寒い……のか。体の震えが止まらない……」


自分の身体じゃないようにぶるぶると震える。でも、どこかにいるだろう真莉のことを考えると、そんなことなんてどうでもいいと思った。


”雪”が増えていく。

たくさん積みあがった”雪”が。


ちらっと僕が住んでいたコンテナハウスが見えた。既にもう住めなくなっている。でも。不思議と悲しくなかった。


”雪”が邪魔してくる。

行く先行く先に在って。僕の足をもつれさせる。


龍也「う……うぇぇ……」


身体の震えが更に止まらない……。気持ち悪くなって僕は嘔吐した。

でも、まだ足は止めない。真莉が居ないから。


たくさん歩いた。たくさん走った。その先に。沢山積み上げられた”雪”の頂点に。真莉は横たわっていた。


龍也「真莉……?」


何度も足をもつれさせながら、何とか真莉の元へと向かう。

そして、やっと手を握った。その手は。


───焼けるほど熱かった。


真莉「ごめん……なさい。わたし……龍也くんのことが……」


真莉はそう言い遺し、涙を流して息を引き取った。


龍也「……ぁ」


真莉が死んだという”真実”が、僕の脳髄を焼き切る。そして欺瞞の世界が引き裂かれていって。

もうそこに、真莉が携えた桃色の髪はなく。黒い髪があった。そこは僕が隠していた真実の世界で。ずっと避けていた真実が、目の前に広がっていた。


龍也「僕の認知が……半年……ズレていた……?」


僕の震えが寒さから来たものではなく、熱中症から来たことに気づいた瞬間、様々な謎が次々に解けていく。


秋に来た季節外れの転校生も。冬に来た、未曽有の台風も。

全て。それで説明がついてしまう事実に、今はただ戦慄することしかできなくて。


焼けるようなお天道様が札幌を照らし、”雪”のように見えていた死体が姿を現す。


そんな地獄を、僕は直視したくない。


龍也「僕は……まだ……嘘に逃げていたいんだ……」


───そして僕は、もう一度嘘に逃げた。

遠い過去。僕がまだ物心ついたくらいの頃。


世界はぐちゃぐちゃだった。大人はみんな壁のように大きかったし、僕は小さかった。そして、皆が見えないっていう物も見えちゃってた。


───僕と一緒の人が居なくてつまんなかった。


だから、僕は嘘をついたの。友達に。


「みんな、そうやって見えるよって」


そしたら、次の日からテレビが騒がしかった。難しくてよくわからなかったけど、僕と同じ子がいっぱいいるんだって気づいて、ちょっとワクワクしたんだ。

でも、幼稚園の時。僕が普通じゃないって沢山言われたんだ。


悲しかった。


僕が泣くまで、みんなは僕のことを普通じゃないって毎日言うの。それを、ずっと。


だから、願ったんだ。


この世界が、”物語”みたいだったら良いなって。僕が普通じゃなくていいよって言ってくれる物語だったら、毎日楽しいなって。


でもね。


その次には。みんな居なくなったの。


だから、僕は逃げたの。


欺瞞の世界に。


真莉トゥルーエンド-FIN

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