10話 FAKE TRUE
サクラ「あら。調子見に来てあげたらなんて無様な顔してるわけ??」
呆然としていた僕の後ろから、今一番会いたくないような、会いたかったような人の声がする。
無様な僕の顔を見に来たのか?
龍也「何しに来たんだよ?サクラ……」
渋々見上げたそこには、嘲笑っているサクラが、
────いなかった。
どちらかというと、辛いのを虚勢張って我慢している時のような顔をしていた。
どうしたんだ?僕のイメージのサクラと違うぞ……?
奥に見える夜空に、消えていってしまいそうな。そんな脆弱さが目の奥にある。
あまりにそれが愛おしく見えてしまって、思わず目を背けてしまった。
サクラ「ふん。アンタの顔って、ほんと悲しんでる表情似合わないわね。着いてきなさい!」
有無を言わせない強引さ。でも、その奥に確かに、凍えそうな僕の心をすくい上げるような優しさがあった。
サクラの細い指が、僕の泥のように重い手首を掴む。
サクラ「日常、取り返しに行くわよ……!」
◇
いつもより、夜の札幌が騒がしく感じる。
どっから来てどこに帰るのかわからん、変な酔っ払いが、今は羨ましく感じる。
僕だって何も考えず生きたいよ。全く。
しかし、それに反してサクラは一言も話さない。ただ、僕に微笑みかけているだけだ。
その出で立ちは、本当にお姫様みたいで、少しドキッとした。
でも、立場逆だな。ははは……。
そうしてサクラに連れられて、僕たちは狸小路までやってきた。ノルベサからはそんなに離れていないここは、まさに繫華街という風景をいつも映している。
龍也「何しにここまで連れてきたんだよ……?」
サクラは僕の疑問を無視し、そのままどこかに連れていく。
一体どこに向かっているんだ?自分が知っている情報としては、全く目的地が分からない。でも、帰りたいとも思えないのだ。
……サクラが、僕のために動いてくれているという事実が、僕をここに縛り付けている。
サクラ「着いたわ。どう?アンタ来た事ないでしょ?」
見上げたビルの入り口。ここは……前に恋が「新しくできたから行きたくね?」とスマホの画面を見せてきた場所だ。
狸小路のビル街に建つ、都市型水族館。AOUO SAPPORO。そこがサクラの目的地だった。
サクラ「私は年パスあるから、先入ってるわね。龍也、アンタはそこの受付でチケット買って着いてきなさい」
龍也「はあ……。わかった。もうとことん付き合うよ。待ってて」
サクラは僕の返答に満足したのか、満面の笑みでスキップしながら入場していった。
見慣れているのか、手前のよくわからない展示を無視して中に入っていった。……すごい笑顔で。
龍也「ホント、アイツは優しいのか優しくないかわからんやつ」
そして僕は大人チケットを買って、水族館に入場した。
◇
龍也「すごいなここ……。知らなかったけどここまで本格的だとは」
正直、建物の中に入っているという固定観念から、しょぼいのか?って思っていた。その時の僕を殴りたいくらい綺麗だ。
フロア分けされていて、この階層はアクアリウムがメインらしい。
サクラ「でしょ?傷心中のアンタにはこの美しさが沁みるんじゃないかしら?」
なんでだろう。いつもなら反論しているが、今はその気にもなれない。水槽の中にある小さい水の庭園をじっと見ながら、ボソッと呟いた。
龍也「ははは。確かにそうだな」
サクラ「ほら、上の階にはプロジェクションマッピングあるわよ。早く着いてきなさい」
上の階層についていくと、ペンギンのいる大きな水槽と、部屋いっぱいに広がるプロジェクションマッピングが目の前に現れた。
サクラ「どう?綺麗でしょ?」
微笑みかけるサクラの笑顔と、奥の映像がリンクして僕の心臓を跳ねさせる。
龍也「そっちは何があるんだ?」
そう言いながら、奥にある大きなクラゲを見つめながらふと思う。
それにしても、奥にいる魚と、サクラは似合うな。どちらも綺麗だ。それに対して、ガラスに映る僕は、ひどい顔をしている。
僕だけが映るガラスは、なんて醜いんだ。
サクラ「龍也?どうしたの突っ立って?」
僕……だけ?
なんで、
ガラスの奥に、
サクラは、
居ないんだ……?
サクラ「待って、龍也……!!!」
そもそも、ここまでいくつか、違和感があっただろ。
秋に来る転校生。
性別を超えたように距離が近い恋。
それって、本当の世界なのか?
サクラ「私はここにいる。だから、私の目を見て。ほら、深呼吸して……?」
僕は、なぜここにいる?
僕は、もっと楽しい日常にいたんだ。
僕は、真実を見たくない。
僕は────、
そして。僕の記憶と現実を、”白”が包みこんだ。
◇
恋と外出してから、二日が経ったか?
その間、一歩も外に出てない。それどころか、ゲームすらしていない。
やる気が起きないのだ。
恋の連絡も無視してしまっている。きっと心配かけているだろうな。
それにしても、自分が生きているかすらわからない。もう、とっくに死んでいるのかもしれない。それくらい、何もしていなかった。
凄く疲れている。
まるで、一日札幌中を歩き回ったようなけだるさがある。
はは。実際はこの部屋から一歩も出てないのにな。
そんな気だるい気分をあざ笑うように、コンテナハウスの扉がコンコンと鳴った。
龍也「ん?」
外に誰かいるみたいだ。こんな夜に、何の用なんだ?
だけど、今の僕は誰とも話したくない。居留守使ってやるか。
扉の奥では、誰かが焦っている様子が伝わってくる。でも、それはただの騒音でしかなかった。早く居なくなってほしいと、そう思う。
ノックの音は10分ほどしたあと、完全に消えた。どうやらやっといなくなったらしい。
扉の奥に、すすり泣く声がしたような気がしたが、そんなの関係ない。今、僕は誰とも会いたくないんだ。
龍也「これでよかったんだ……。今の僕に、誰かと会ってもなんもできない」
そして僕は、立ち上がったついでにシャワーを浴び、びしょびしょな状態でもう一度ベッドで寝た。




