第76話『もう一人の帰還者』
夕方。
星降る宿屋には、
今日も暖かな灯りがともっていた。
暖炉前では、
ガルドたち常連組が食事をしている。
「最近、本当に賑やかだな」
ガルドが店内を見回す。
客席はかなり埋まっていた。
笑い声。
料理の香り。
穏やかな空気。
少し前の静かな宿が、
遠い昔のように感じる。
その時だった。
カラン、と扉が鳴る。
「……こんばんは」
店内が少し静かになる。
入ってきたのは、
一人の女性冒険者だった。
見覚えがある。
リアが目を丸くする。
「あっ!」
女性も少し驚いた顔をした。
そして。
小さく笑う。
「久しぶりです」
以前、
眠れない夜を過ごしていた女性冒険者だった。
あの雨の日に宿へ泊まり、
「また来ます」と言って旅立った人である。
「おかえりなさい!」
リアが笑顔で迎える。
女性は少し照れながら答えた。
「……ただいま」
暖炉前では、
ガルドたちがすぐに反応する。
「帰ってきたな!」
「久しぶり!」
「……おかえり」
店内に優しい空気が広がる。
女性は少し恥ずかしそうだった。
「本当に覚えてたんですね」
「もちろんです!」
リアは即答した。
その言葉に、
女性は少しだけ目を細める。
以前なら考えられなかった。
自分の帰りを待ってくれる場所なんて。
その時。
「お待たせしました」
レインが温かな紅茶を置く。
女性は思わず笑った。
「まだ何も言ってないのに」
「疲れてそうだったので」
「やっぱり不思議ですね」
店内に笑いが広がる。
暖炉の火が揺れる。
その時だった。
「それで?」
ガルドが聞く。
「最近どうなんだ?」
女性は少し考えたあと、
静かに答えた。
「順調です」
その顔には、
以前のような疲れ切った影はなかった。
「依頼も上手くいってます」
「おぉ!」
暖炉前が盛り上がる。
女性は少し照れながら続けた。
「でも」
店内が静かになる。
「辛くなったら、ここへ戻ればいいって思えるんです」
暖炉の火が揺れる。
リアは静かに笑った。
ミアも嬉しそうだった。
アルベルトもその言葉を聞いていた。
帰ってくる人。
元気になった人。
また挑戦する人。
そして。
迎える人たち。
「…………」
本当に不思議な宿だ。
王都にも。
どこの街にも。
こんな場所はなかった。
その時。
女性が小さく笑う。
「だからまた来ました」
その言葉に。
リアはいつものように答える。
「はい!」
そして。
とても嬉しそうに笑った。
「おかえりなさい!」
暖炉の火が優しく揺れる。
星降る宿屋。
そこは今日も、
誰かが帰ってくる場所だった。




