第7話『新人アルバイト、募集中です』
「……人、増えましたね」
昼時。
リアは店内を見回しながら呟いた。
席はほぼ埋まっている。
冒険者。
商人。
旅人。
以前では考えられない光景だった。
「追加注文お願いしまーす!」
「はーい!」
リアが慌てて走り回る。
だが。
「わっ!?」
バランスを崩した。
皿が傾く。
しかしその瞬間。
「危ないですよ」
レインが自然に支える。
「す、すみません……」
「一人では限界ですね」
その一言に、リアの動きが止まった。
「……ですよねぇ」
リアはカウンターへ突っ伏す。
「最近ずっと忙しくて……」
朝から晩まで働きっぱなしだ。
しかもレインがいなければ、完全に回っていない。
するとセリアが笑いながら口を開く。
「じゃあ増やせばいいじゃん」
「へ?」
「従業員」
リアは目を丸くした。
「で、でもお金が……」
「今なら前より余裕あるでしょ?」
「うっ……」
確かにそうだった。
最近は客も増えている。
赤字寸前だった宿に、少しずつ余裕が生まれ始めていた。
リアはちらりとレインを見る。
「……どう思います?」
「良いと思いますよ」
即答だった。
「宿は、一人で抱え込むものじゃないので」
その言葉に、リアは少しだけ目を伏せる。
昔からずっと一人だった。
宿を守るのは自分しかいないと思っていた。
だから。
「…………」
胸の奥が少しだけ温かくなる。
「じゃ、じゃあ募集してみます!」
セリアがニヤリと笑った。
「よし、決まり」
その日の夕方。
星降る宿屋の入口には、小さな張り紙が貼られていた。
『アルバイト募集中』
その翌日。
「……あ、あの」
小さな声が響く。
リアが振り返る。
入口に立っていたのは、一人の少女だった。
水色寄りの銀髪。
ゆるいセミロング。
青緑の瞳。
白い服をぎゅっと握りしめ、不安そうに俯いている。
「あ、アルバイト募集……まだしてますか?」
リアは目を輝かせた。
「してます!」
少女がびくっと肩を震わせる。
「あ、ご、ごめんなさい……!」
「え!? なんで謝るの!?」
慌てるリア。
少女はオロオロしていた。
「その……わ、私、不器用で……」
「大丈夫ですよ!」
リアは笑顔で手を差し出す。
「私はリア・フェルナです!」
「あ……」
少女は少し迷い――小さく答えた。
「ミア……です」
その時だった。
ぐぅぅぅ……
空気が止まる。
ミアの顔が真っ赤になった。
「~~~~っ!?」
「……お腹空いてるんですか?」
レインの言葉に、ミアは今にも消えそうな声で答える。
「き、昨日から……何も……」
数分後。
ミアの前には、湯気立つスープとパンが置かれていた。
「た、食べていいんですか……?」
「もちろんです」
ミアは恐る恐るスープを口へ運ぶ。
その瞬間。
「……っ」
青緑の瞳が、大きく揺れた。
温かい。
優しい。
まるで身体の奥まで染み込むみたいだった。
ぽろっ。
突然、涙が零れ落ちる。
「えっ!? だ、大丈夫!?」
リアが慌てる。
ミアは涙を拭いながら、小さく首を振った。
「……ごめんなさい」
そして。
「……こんな温かいご飯、久しぶりで」
店内が静かになる。
その空気の中。
レインは穏やかな声で言った。
「なら、ゆっくり食べてください」
ミアは小さく頷く。
その日。
星降る宿屋に、新しい仲間が増えた。




