第71話『王都からの手紙』
第71話『王都からの手紙』
朝。
星降る宿屋には、
いつものように焼き立てパンの香りが広がっていた。
暖炉の火。
穏やかな空気。
笑い声。
第2章が終わっても、
宿の日常は変わらない。
「パン焼けましたー!」
ミアが嬉しそうに厨房から出てくる。
「おー!」
ガルドたちは朝から元気だった。
その時だった。
カラン、と扉が鳴る。
「配達です!」
リアが受付へ向かう。
「はーい!」
受け取ったのは一通の封筒。
だが。
前回の聖女からの手紙とは違う。
封蝋付き。
上質な紙。
王都騎士団の紋章。
「……え?」
リアが固まる。
ミリアも目を丸くした。
「王都騎士団?」
店内が少し静かになる。
暖炉前では、
ガルドたちが顔を見合わせた。
「レイン宛か?」
封筒には確かに書かれていた。
『レイン・クラウディア様』
「レインさん!」
リアが慌てて呼ぶ。
厨房からレインが顔を出した。
「どうしました?」
「手紙です!」
「?」
レインは封筒を見る。
そして。
首を傾げた。
「誰でしょう」
皆がズッコケそうになった。
「王都騎士団だろ!」
「絶対知り合いだろ!」
ガルドたちが総ツッコミする。
レインは少し考えたあと、
静かに封を開いた。
中には一枚の手紙。
綺麗な字で書かれている。
⸻
『レイン・クラウディア殿』
『突然の手紙を許してほしい。』
『辺境で君を見つけた。』
『そして初めて気づいた。』
『我々は君の価値を理解していなかった。』
『王都で今起きている混乱を見るたびに、その事実を痛感している。』
『だが安心してほしい。』
『私は君を連れ戻すために書いているのではない。』
『今の君が幸せそうだったからだ。』
『ただ一つだけ伝えたい。』
『ありがとう。』
『王都騎士団副団長
アレクス』
⸻
店内が静まり返る。
暖炉の火だけが静かに揺れている。
「…………」
リアが手紙を見る。
ミアも見る。
ミリアも見る。
暖炉前の常連たちも見る。
そして。
全員がレインを見る。
「……ありがとうって書いてあるな」
ガルドがぽつりと呟く。
「そうですね」
レインは静かに頷いた。
怒りもない。
驚きもない。
ただ穏やかな表情だった。
その時。
リアが少し不安そうに聞く。
「レインさん」
「はい?」
「王都に戻りたいとか……思いますか?」
店内が静かになる。
皆が答えを待った。
レインは少し考え――
暖炉を見る。
宿を見る。
笑顔の仲間たちを見る。
そして。
小さく笑った。
「今はここが好きなので」
その瞬間。
リアの顔がぱっと明るくなる。
ミアもほっとした顔をする。
暖炉前では。
「だよな」
「知ってた」
「……当然」
常連たちが笑った。
暖炉の火が揺れる。
王都から届いた一通の手紙。
それは過去からの謝罪であり――
新しい物語の始まりでもあった。




