第69話『守られている場所』
夜。
星降る宿屋には、
いつも通り暖かな灯りがともっていた。
昼間の騒動も終わり、
店内には穏やかな空気が戻っている。
「今日はちょっと驚きましたね」
リアが食器を片付けながら苦笑する。
「そうですね」
ミリアも頷いた。
あの三人組は結局、
最後には大人しく食事をして帰っていった。
特に問題も起きなかった。
だが。
リアの胸には、
少しだけ不思議な気持ちが残っていた。
「…………」
その時。
「どうした?」
ガルドが気づく。
リアは少し照れたように笑った。
「なんというか……」
そして。
暖炉前を見る。
ガルド。
ユーリ。
ディオ。
いつもの常連席。
「皆さんが助けてくれて嬉しかったなって」
暖炉の火が揺れる。
その言葉に。
ガルドは少しだけ笑った。
「当たり前だろ」
「え?」
「俺たちもこの宿好きだからな」
ユーリも頷く。
「居場所って大事だし」
「……守りたい」
ディオも静かに言う。
リアは少し目を丸くした。
その時。
カラン、と扉が鳴る。
「こんばんはー!」
入ってきたのは、
以前この宿で元気を取り戻した若い冒険者だった。
「おかえりなさい!」
リアが笑顔で迎える。
青年も自然に笑う。
「ただいま」
そのやり取りを見て。
ガルドたちは当たり前のように席を空けた。
「ほら新人、こっち」
「もう新人じゃないだろ」
「……座れ」
店内に笑い声が広がる。
青年は苦笑しながら暖炉前へ座った。
そして。
ぽつりと呟く。
「ここ来ると安心するな」
暖炉の火。
木の香り。
笑い声。
誰かの「おかえり」。
その言葉を聞いた瞬間。
リアはようやく気づいた。
少し前まで。
この宿を守っていたのは自分だった。
でも今は違う。
帰ってきてくれる人たちがいる。
この場所を好きだと言ってくれる人たちがいる。
そして。
守ろうとしてくれる人たちがいる。
「…………」
リアは静かに笑った。
その時。
「リアさん」
ミアが隣へ来る。
「どうしました?」
「……今、すごく嬉しそうです」
「えっ」
顔が少し赤くなる。
すると暖炉前から。
「最近ずっとだな」
「幸せそう」
「……わかる」
常連たちが笑う。
「もうっ!」
リアの抗議に、
店内はさらに賑やかになる。
暖炉の火が揺れる。
星降る宿屋。
そこは今日も、
たくさんの人に守られながら灯りをともしていた。




