↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
73/84

第70話『英雄たちの帰る場所』

夕方。


星降る宿屋には、

今日も暖かな灯りがともっていた。


暖炉前では、

いつもの常連たちが食事をしている。


「なんだかんだで人増えたなぁ」


ガルドが店内を見回す。


客席はほとんど埋まっていた。


冒険者。


旅商人。


旅人。


そして。


何度も帰ってくる常連たち。


少し前までの星降る宿屋では、

考えられない光景だった。


「本当ですね」


リアも静かに頷く。


その時。


カラン、と扉が鳴る。


「こんばんは」


入ってきたのは、

見覚えのある女性だった。


銀色の長い髪。


透き通る青い瞳。


白いローブ。


「あっ!」


リアの顔がぱっと明るくなる。


「おかえりなさい!」


聖女だった。


女性は少し照れながら笑う。


「……ただいま、です」


暖炉前では、

ガルドたちが手を振る。


「帰ってきたなー!」

「久しぶり!」

「……おかえり」


店内に優しい空気が広がる。


聖女は静かに席へ座った。


すると。


「お待たせしました」


レインが紅茶を置く。


女性は微笑む。


「また来てしまいました」


「疲れてましたか?」


「少しだけ」


その返事に、

レインは静かに頷いた。


それだけだった。


けれど。


聖女の表情はどこか安心していた。


暖炉の火が揺れる。


その様子を見ながら、

アレクスは静かに紅茶を飲んでいた。


王都副団長。


今も宿へ滞在している。


「…………」


目の前の光景を見る。


聖女。


冒険者。


商人。


旅人。


皆が自然に帰ってくる。


誰も命令していない。


誰も強制していない。


それなのに。


皆がこの宿へ戻ってくる。


その理由を。


アレクスはようやく理解した。


強さじゃない。


権力でもない。


名声でもない。


「帰ってこれるからか」


小さく呟く。


その言葉に。


隣のガルドが笑った。


「今さら気づいたのか?」


「そうらしい」


アレクスも苦笑する。


暖炉前では、

ミアが焼き立てパンを配っている。


リアは笑っている。


ミリアも仕事帰りに紅茶を飲んでいる。


そして。


レインはいつも通り働いている。


何も変わらない。


だが。


それが何より大切だった。


その時。


聖女が静かに店内を見回した。


そして。


小さく笑う。


「本当に不思議ですね」


「何がですか?」


リアが聞く。


聖女は暖炉の火を見る。


揺れる灯り。


穏やかな空気。


帰ってきた人たち。


そして。


迎えてくれる人たち。


「ここには英雄もいます」


静かな声だった。


店内が少し静かになる。


「でも」


聖女は続ける。


「皆、ただ帰ってきているだけなんです」


暖炉の火が揺れる。


その言葉に。


誰も否定しなかった。


冒険者も。


聖女も。


騎士も。


旅人も。


ここでは皆同じだった。


帰ってきた人。


ただそれだけ。


リアは静かに笑った。


「それが、この宿ですから」


暖炉の火が優しく揺れる。


星降る宿屋。


そこはいつしか――


英雄たちの帰る場所になっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。