第66話『王都へ届く後悔』
王都。
騎士団本部。
朝から慌ただしい空気が流れていた。
「まだ終わらないのか?」
団長が苛立った声を上げる。
目の前には大量の書類。
補給申請。
修理依頼。
遠征準備。
どれも処理が遅れていた。
「申し訳ありません」
部下が頭を下げる。
「担当が足りず……」
「前は回っていただろう!」
団長が机を叩いた。
だが。
誰も答えられない。
なぜなら。
本当に理由が分からなかったからだ。
その時。
会議室の扉が開く。
「失礼します」
アレクスだった。
王都騎士団副団長。
辺境から帰還したばかりである。
「戻ったか」
団長が顔を上げる。
「視察はどうだった?」
アレクスは少し沈黙した。
そして。
静かに答える。
「……興味深いものを見ました」
その言葉に。
周囲の騎士たちが首を傾げる。
「辺境に何かあったのか?」
「はい」
アレクスは頷いた。
そして。
ゆっくり口を開く。
「レイン・クラウディアを見つけました」
会議室が静まり返った。
数秒。
誰も反応できなかった。
やがて。
「……誰だ?」
団長が眉をひそめる。
その瞬間。
アレクスは本気で頭を抱えたくなった。
「覚えていないんですか?」
「?」
周囲も同じ顔だった。
だが。
補給担当の騎士が小さく声を上げる。
「……補助部隊の?」
「そうです」
アレクスは頷く。
そして。
静かに続けた。
「追放した男です」
暖炉の代わりに、
会議室の空気が重くなる。
「…………」
団長は腕を組んだ。
「ああ、器用貧乏の」
その言葉を聞いた瞬間。
アレクスは深く息を吐いた。
「本当にそう思いますか?」
「何?」
アレクスは真っ直ぐ団長を見る。
「補給管理」
「施設整備」
「武器修理」
「書類処理」
「遠征準備」
一つずつ並べていく。
そして。
「今、全部遅れている仕事です」
誰も反論できなかった。
なぜなら事実だからだ。
「それを一人で回していたのがレインです」
静寂。
騎士たちの顔色が変わる。
「……まさか」
「嘘だろ」
信じられない。
そんな表情だった。
だが。
アレクスは知っている。
実際に見てきた。
辺境の宿で。
当たり前のように人を支える姿を。
そして。
誰にも気づかれないように働く姿を。
「私も気づいていませんでした」
アレクスは苦笑した。
「だから責めるつもりはありません」
それでも。
一つだけ確かなことがある。
「王都は」
静かに言う。
「とても大きな人材を失いました」
会議室は静まり返った。
誰も何も言えない。
その頃。
辺境の星降る宿屋では――
「リアさん、パン焼けました」
「はーい!」
暖炉の火が揺れる。
レインはいつも通り働いていた。
王都の後悔など、
何も知らないまま。




