第61話『王都から来た男』
昼。
星降る宿屋には、
いつもの穏やかな時間が流れていた。
暖炉前では、
ガルドたち常連組が昼食を食べている。
「最近平和だなー」
「それ毎回言ってないか?」
ユーリが呆れる。
その時だった。
カラン、と扉が鳴る。
店内が少し静かになる。
入ってきたのは、
見慣れない男だった。
年齢は三十代前後。
黒い外套。
腰には上質な剣。
歩き方に隙がない。
「…………」
冒険者だろうか。
だが。
普通の冒険者とも少し違う。
暖炉前のガルドたちが、
ちらりと男を見る。
「いらっしゃいませ!」
リアが笑顔で迎えた。
男は軽く頭を下げる。
「一泊頼めるか」
落ち着いた声だった。
「もちろんです!」
受付を済ませながら、
リアは少し不思議に思う。
王都の人間。
そんな雰囲気があった。
その時。
男の視線が、
店内をゆっくり見渡した。
暖炉。
常連たち。
笑い声。
穏やかな空気。
そして。
厨房にいる灰銀色の青年。
「…………」
男の目が、
ほんの少しだけ細くなる。
だが。
すぐに表情は戻った。
気のせいだったかもしれない。
数十分後。
男は食堂で昼食を取っていた。
シチューを一口。
パンを一口。
そして。
「……なるほど」
小さく呟く。
美味しい。
だがそれ以上に。
妙に落ち着く。
その時。
「初めてか?」
ガルドが声をかけた。
「そうだ」
男は短く答える。
するとユーリが笑う。
「じゃあ今日はゆっくりしてけ」
「ここ、帰りたくなくなるぞ」
「……寝れる」
ディオも頷く。
男は少しだけ苦笑した。
「面白い宿だな」
すると。
「よく言われます」
レインが平然と言った。
店内に笑い声が広がる。
男はその光景を静かに見つめる。
不思議だった。
王都には立派な宿がいくらでもある。
高級宿もある。
だが。
こんな空気の宿は知らない。
「…………」
男は再びレインを見る。
灰銀色の髪。
穏やかな表情。
どこか見覚えがある気がした。
だが。
思い出せない。
その時。
リアの笑い声が響く。
ミアも少しずつ笑っている。
暖炉前では常連たちが騒いでいる。
男は静かに紅茶を飲んだ。
そして。
小さく息を吐く。
「……悪くない」
窓から差し込む午後の日差し。
暖炉の火。
優しい空気。
王都から来た男はまだ知らない。
自分が探していたものが、
この宿にあるかもしれないことを。
そして。
この宿の青年が、
王都で少しずつ噂になり始めていることを。




