第60話『帰ってくる理由』
夕方。
星降る宿屋には、
今日も暖かな灯りがともっていた。
暖炉前では、
常連たちがいつもの席で食事をしている。
「最近人増えたよな」
ガルドが周囲を見回しながら言う。
確かにそうだった。
客席はかなり埋まっている。
冒険者。
旅商人。
旅人。
少し前なら考えられない光景だ。
「ありがたいことですね」
リアが嬉しそうに笑う。
その時。
カラン、と扉が鳴った。
「こんばんは」
入ってきたのは、
見覚えのある男性だった。
「……あっ!」
リアが目を丸くする。
以前、
依頼失敗で落ち込んでいた冒険者だ。
そして。
少し前に、
再挑戦のため宿を出ていった人でもある。
「おかえりなさい!」
リアが笑顔で迎える。
男性は少し照れながら笑った。
「ただいま」
暖炉前では、
ガルドたちがすぐ反応する。
「帰ってきたな!」
「今度はどうだった?」
「……報告」
男性は苦笑しながら席へ座る。
そして。
静かに口を開いた。
「成功した」
店内が少し静かになる。
「おおっ!」
歓声が上がる。
「やったじゃん!」
「だから言ったろ!」
ガルドが豪快に笑う。
男性も自然に笑った。
以前ここへ来た時とは、
まるで別人だった。
あの頃は。
失敗して。
落ち込んで。
前を向けなかった。
でも今は違う。
「……ここに来たからだと思う」
ぽつりと漏れた言葉。
暖炉の火が揺れる。
男性は少し照れながら続けた。
「もちろん依頼は自分でやった」
「でも」
宿の中を見回す。
笑い声。
安心できる空気。
そして。
自然に迎えてくれる人たち。
「帰ってこれる場所があるって思えたんだ」
静かな声だった。
けれど。
その言葉は店内へ優しく広がる。
リアは少しだけ目を潤ませた。
ミアも嬉しそうに笑う。
ミリアは静かに紅茶を飲みながら頷いていた。
その時。
「それなら良かったです」
レインが静かに言う。
男性は小さく笑った。
「だからまた来た」
その言葉に。
暖炉前の常連たちも笑う。
「もう常連だな」
「暖炉前空けとくか?」
「……おかえり」
店内に笑い声が広がる。
暖炉の火が揺れる。
星降る宿屋。
そこは今日も、
誰かが帰ってくる場所だった。
そして。
その灯りは少しずつ、
街の外へも広がり始めていた。




