第58話『もう一度挑戦するために』
翌朝。
星降る宿屋には、
焼き立てパンの香りが広がっていた。
暖炉の火は小さく揺れ、
穏やかな朝の空気が流れている。
昨夜、
依頼失敗の話をしていた冒険者の男性も食堂にいた。
「よく眠れましたか?」
リアが笑顔で尋ねる。
男性は少し驚いたように頷いた。
「……久しぶりにな」
その表情は、
昨夜より明るい。
完全に元気になったわけではない。
でも。
肩に乗っていた重たいものが、
少し軽くなったようだった。
その時。
「おはようございます!」
ミアが焼き立てパンを運んでくる。
香ばしい香りが広がった。
「最近このパン好きなんだよな」
ガルドが嬉しそうに言う。
「ミアちゃんのパン当たりだよな」
ユーリも頷く。
ミアは少し照れながら、
それでも嬉しそうだった。
男性はそんな光景を静かに見ていた。
暖炉前の常連たち。
自然に笑う宿の人たち。
誰も急がない朝。
不思議だった。
ただ一晩泊まっただけなのに、
心が少し落ち着いている。
その時。
「次の依頼はどうするんですか?」
若い冒険者が聞いた。
男性は少し考える。
そして。
「……受けるよ」
真っ直ぐ前を向いた。
「失敗したからって止まれないしな」
暖炉前の常連たちが笑う。
「それでこそ冒険者」
「次は成功だな」
「……応援してる」
男性は少し照れたように笑った。
すると。
「また疲れたら来てください」
レインが静かに言う。
暖炉の火が揺れる。
男性はその言葉を聞いて、
少しだけ目を細めた。
「……ああ」
短い返事。
だけど。
その声には確かな力が戻っていた。
出発の時間。
宿の前で荷物を背負う。
空は綺麗に晴れている。
「世話になったな」
男性が頭を下げる。
リアは笑顔で手を振った。
「行ってらっしゃい!」
ミアも小さく頭を下げる。
「気をつけてください」
暖炉前の常連たちも見送る。
「次は成功報告な!」
「待ってるぞー!」
「……また来い」
男性は思わず笑った。
そして。
「……ああ。また来る」
その言葉を残して歩き出す。
星降る宿屋。
そこは今日も、
誰かがもう一度挑戦するために帰ってくる場所だった。




