第57話『失敗した日でも』
夜。
星降る宿屋には、
暖かな灯りがともっていた。
暖炉前では、
いつもの常連たちが食事をしている。
その中に、
先日依頼成功を報告した若い冒険者の姿もあった。
「最近調子良さそうだな」
ガルドが笑う。
「まぁ、少しは」
青年も苦笑した。
その時だった。
カラン、と扉が鳴る。
入ってきたのは、
別の冒険者だった。
三十代くらいの男性。
装備は傷だらけ。
表情も暗い。
「…………」
店内を見回した後、
静かに席へ座る。
リアは笑顔で迎えた。
「いらっしゃいませ!」
だが。
男性は力なく頷くだけだった。
誰の目にも、
落ち込んでいるのがわかる。
「どうしたんだ?」
ガルドが声をかける。
男性は少し迷い――やがて苦笑した。
「依頼失敗だよ」
暖炉の火が静かに揺れる。
「仲間にも迷惑かけた」
「報酬もなし」
そう言って俯く。
その姿は、
どこか昔の若い冒険者と重なった。
すると。
「大丈夫ですよ」
ぽつりと声が聞こえた。
皆が振り返る。
話したのは、
あの若い冒険者だった。
「え?」
男性が顔を上げる。
青年は少し照れながら笑った。
「俺も前、ここ来た時そんな感じだったんで」
暖炉前が静かになる。
「失敗して」
「自信なくして」
「もう無理かもって思ってました」
でも。
青年は星降る宿屋を見回した。
暖炉。
料理。
笑い声。
そして。
安心できる空気。
「ここで休んだら」
「また頑張ろうって思えたんです」
その言葉に。
男性は少し驚いた顔をした。
すると。
「それな」
ガルドも頷く。
「失敗しない冒険者なんていねぇよ」
「毎回成功してたら伝説だな」
ユーリが笑う。
ディオも静かに頷いた。
「……帰ってこれればいい」
暖炉の火が揺れる。
男性はしばらく黙っていた。
やがて。
ふっと肩の力を抜く。
「……そうかもな」
その時。
「お待たせしました」
レインがシチューを置く。
優しい香りが広がった。
男性は一口食べる。
そして。
「……うまい」
自然に漏れた声。
店内に笑いが広がる。
リアも嬉しそうに笑った。
星降る宿屋。
ここでは。
成功した人も。
失敗した人も。
皆が同じように迎えられる。
暖炉の火が揺れる。
今夜もまた、
誰かの心が少しだけ軽くなっていた。




