第55話『夏祭りの夜』
夕方。
ついに祭り当日がやってきた。
街の広場には、
無数の提灯が灯っている。
屋台から漂う香ばしい匂い。
楽しそうな笑い声。
子どもたちのはしゃぐ声。
辺境の街とは思えないほど賑やかだった。
「すごい……!」
ミアが思わず立ち止まる。
青と白の浴衣姿。
少し緊張しているが、
目はしっかり輝いていた。
「でしょ!」
リアも笑顔だ。
淡い黄色の浴衣がよく似合っている。
「毎年見てるのに、今年はなんだか特別です!」
そう言いながら、
楽しそうに周囲を見回していた。
その時。
「おーい!」
ガルドたちが手を振る。
「こっちだー!」
既に屋台の前で何か食べている。
「早いですよ!?」
「祭りは戦争だからな!」
意味がわからなかった。
暖炉前の常連たちは、
完全に祭りを満喫している。
その様子を見て、
皆が笑った。
その時だった。
「……似合ってますね」
レインが静かに言った。
リアとミアが固まる。
「えっ」
「…………」
数秒の沈黙。
そして。
リアの顔が真っ赤になる。
ミアも耳まで赤い。
「きゅ、急に言わないでください!」
「?」
レインは本気で不思議そうだった。
ユーリが吹き出した。
「天然だなぁ」
セリアも笑いを堪えている。
「これは重症だねぇ」
「何がですか!?」
リアの悲鳴が響いた。
店内――ではなく、
祭り会場に笑い声が広がる。
その後。
皆で屋台を回った。
焼き鳥。
果実飴。
冷たい果汁水。
ミアは初めて見るものばかりで、
ずっと目を輝かせていた。
「……楽しいです」
ぽつりと漏れた言葉。
リアは嬉しそうに笑った。
「よかった!」
少し前まで。
ミアは人前へ出ることも苦手だった。
でも今は。
皆と一緒に笑っている。
それが何より嬉しかった。
やがて。
夜空へ大きな光が打ち上がる。
ドォン――。
花火だった。
街の人々が歓声を上げる。
夜空いっぱいに広がる光。
色鮮やかな花火が、
夏の夜を照らしていた。
「綺麗……」
リアが小さく呟く。
その横顔を、
レインは静かに見ていた。
宿。
仲間。
帰ってくる人たち。
そして。
こうして笑える時間。
「…………」
悪くない。
むしろ。
とても心地良かった。
花火の光が夜空を彩る。
星降る宿屋にとっても。
そして皆にとっても。
忘れられない夏祭りの夜になった。




