第54話『祭りの前夜』
夜。
祭り前日。
街はいつもより賑やかだった。
広場では最後の準備が行われ、
色とりどりの提灯が並び始めている。
「いよいよ明日ですねぇ」
リアは宿の窓から街を眺めながら呟いた。
少しだけ緊張している。
少しだけ楽しみでもある。
そんな表情だった。
「予約もかなり入ってますね」
ミリアが帳簿を見ながら言う。
祭り目当ての客。
観光客。
冒険者。
例年より明らかに多い。
「忙しくなりそうです……」
ミアが少し不安そうに呟く。
すると。
「大丈夫ですよ」
レインが穏やかに言った。
「今までだって乗り越えてきました」
その言葉に。
ミアは少しだけ肩の力を抜く。
確かにそうだった。
最初は接客も怖かった。
失敗も多かった。
でも今は違う。
「……はい」
小さく頷く。
暖炉の火が揺れる。
その時だった。
カラン、と扉が鳴る。
「ただいまー!」
元気な声と共に入ってきたのは、
ガルドたちだった。
「祭り前だから依頼早く終わらせてきた!」
「完全に遊ぶ気ですね」
ミリアが呆れる。
「当たり前だろ!」
ガルドは胸を張った。
その後ろでユーリも笑う。
「祭りは全力で楽しまないとな」
「……食べる」
ディオもやる気だった。
リアは思わず吹き出す。
「皆さん本当に楽しみなんですね」
「リアちゃんが一番楽しみそうだけどな」
その瞬間。
リアが固まった。
「えっ」
「確かに」
「浴衣選んでる時めっちゃ目輝いてた」
「ち、違います!」
顔が真っ赤になる。
店内に笑い声が広がった。
その時。
ふとレインが窓の外を見る。
広場の灯り。
人々の笑顔。
祭りの準備。
「…………」
静かな宿だった。
誰も来なくて。
先が見えなくて。
そんな日もあった。
でも今は違う。
帰ってくる人がいる。
笑う人がいる。
安心して休める場所がある。
「レインさん?」
リアが首を傾げる。
「どうしました?」
レインは小さく首を振った。
「いえ」
そして。
穏やかに店内を見回す。
暖炉。
常連たち。
仲間たち。
そして。
笑顔の看板娘。
「良い宿になりましたね」
ぽつりと漏れた言葉。
その瞬間。
リアは少し驚いた顔をした。
やがて。
とても嬉しそうに笑う。
「……はい!」
暖炉の火が揺れる。
祭りの前夜。
星降る宿屋には、
いつも以上に温かな時間が流れていた。




