第49話『灯りの消えない宿』
夜。
星降る宿屋には、
いつもより遅くまで灯りがついていた。
外は静かだ。
街道を歩く人影も少ない。
だが。
宿の中だけは違った。
暖炉の火。
料理の香り。
穏やかな笑い声。
「……なんか今日すごい人多くない?」
リアが店内を見回しながら呟く。
客席はかなり埋まっていた。
常連だけじゃない。
初めて見る冒険者や、
旅商人までいる。
「ギルドで噂かなり広がってますからね」
ミリアが苦笑する。
「最近、“星降る宿屋行った?”って普通に聞かれます」
「えぇ……」
リアはまだ少し信じられない顔だった。
その時。
「すみません、まだ泊まれますか?」
扉から、
疲れた様子の青年が入ってくる。
かなり消耗していた。
装備もボロボロだ。
リアはすぐ笑顔になる。
「もちろんです!」
青年は少し驚いた顔をする。
こんな時間なのに。
こんな辺境なのに。
宿の中が、
妙に暖かい。
「…………」
暖炉前では、
常連たちが騒いでいる。
「お、新人?」
「ここ飯うまいぞ」
「……寝れる」
完全にいつもの流れだった。
青年は少し戸惑いながら席へ座る。
その瞬間。
ふっと肩の力が抜けた。
「……あったかい」
ぽつりと漏れる。
すると。
「どうぞ」
レインが静かに温かなスープを置いた。
優しい香りが広がる。
青年は恐る恐る口へ運び――そして目を見開いた。
「……うまい」
その声には、
少しだけ安堵が混ざっていた。
その光景を見ながら、
リアは静かに店内を見回す。
暖炉の火。
帰ってくる常連たち。
自然に笑うミア。
紅茶を飲んで落ち着いているミリア。
そして。
何事もないみたいに料理を作るレイン。
「…………」
少し前まで。
この宿は、
夜になると静かだった。
客も少なくて。
灯りも早く消えて。
不安になる日も多かった。
でも今は違う。
「リアさん?」
ミアが小さく首を傾げる。
リアは少し照れたように笑った。
「……なんか嬉しいなって」
「?」
「こんなに人が帰ってきてくれるんだなぁって」
暖炉の火が揺れる。
その時。
入口近くの旅商人が、
ぽつりと呟いた。
「この宿、なんか帰ってきたくなるな」
その言葉に。
店内が少し静かになる。
そして。
「だろ?」
ガルドが笑った。
「ここ、“灯り消えない宿”だからな」
暖かな笑い声が広がる。
星降る宿屋。
そこは今日も、
誰かの帰る灯りになっていた。




