第47話『行ってらっしゃい』
朝。
空は綺麗に晴れていた。
雨上がりの澄んだ空気が、
星降る宿屋を優しく包んでいる。
宿の前では、
白ローブの女性が出発準備をしていた。
銀色の髪が、
朝日に静かに揺れる。
「本当にお世話になりました」
女性は深く頭を下げた。
リアは慌てて手を振る。
「そんな! また来てくださいね!」
「はい」
女性は小さく笑う。
最初に来た時とは、
まるで別人みたいだった。
張り詰めた空気は消え、
今はちゃんと力が抜けている。
その時。
「これ、道中で食べてください」
ミアが小さな包みを差し出した。
「え……?」
「パン、焼いたので」
少し照れたように視線を逸らすミア。
女性は目を丸くし――やがてとても優しく笑った。
「……ありがとうございます」
包みを抱える手が、
少しだけ温かい。
暖炉前では、
常連たちがいつものように騒いでいた。
「また来いよー!」
「疲れたらここ逃げ込め」
「……ちゃんと休め」
完全に常連対応だった。
女性は少し困ったように笑う。
「ふふ……変な宿ですね」
すると。
「よく言われます」
レインが平然と返した。
店内に笑い声が広がる。
女性は静かに周囲を見回す。
暖炉。
木の香り。
穏やかな空気。
そして。
自然に“また来てください”と言ってくれる人たち。
「…………」
こんな場所、
ずっと知らなかった。
その時。
「無理しすぎないでください」
レインが静かに言った。
女性は少し驚いた顔をする。
「また疲れたら来ればいいので」
暖かな朝の光が差し込む。
その言葉に。
女性はゆっくり目を閉じ――そして小さく笑った。
「……はい」
それは、
とても穏やかな返事だった。
やがて。
女性は宿の入口へ向かう。
「では」
その瞬間。
リアがぱっと笑顔になった。
「行ってらっしゃい!」
ミアも小さく頭を下げる。
「……気をつけてください」
ガルドたちも手を振った。
「またなー!」
「次来た時は暖炉席な」
「……おかえりって言う」
女性は、
少しだけ目を見開いた。
そして。
本当に嬉しそうに笑った。
「……行ってきます」
朝日が差し込む。
星降る宿屋。
そこは今日も、
誰かが“帰ってこられる場所”であり続けていた。




