↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
49/85

第46話『少しだけ眠れた顔』

朝。


星降る宿屋には、

柔らかな光が差し込んでいた。


暖炉の火は小さく揺れ、

焼き立てパンの香りが店内へ広がっている。


「……今日は静かですね」


リアが窓の外を見ながら呟く。


雨も止み、

久しぶりに穏やかな朝だった。


その時。


コツ、コツ、と階段を降りる音が聞こえる。


「おはようございます」


白ローブの女性だった。


銀色の髪。


透き通る青い瞳。


だが。


「……あ」


リアは小さく目を丸くする。


昨日までより、

表情がずっと柔らかい。


「おはようございます!」


リアが笑顔で迎える。


すると女性は、

少しだけ照れたように笑った。


「……久しぶりに、ちゃんと眠れました」


その言葉に。


暖炉前の常連たちが反応する。


「お、星降る宿屋デビュー成功だな」

「ここマジで寝れるからなー」

「……わかる」


ディオは今日も静かだった。


女性は少し戸惑いながら、

でも確かに笑っていた。


その時。


「今日は少し顔色良いですね」


レインが静かに紅茶を置く。


「……そう見えますか?」


「はい」


レインは穏やかに頷く。


女性は少しだけ視線を落とした。


本当に不思議だった。


ただ休んでいるだけなのに。


暖かい食事を食べて。


安心できる場所で眠って。


誰かに「無理しないでください」と言われるだけで。


こんなにも、

身体が軽くなるなんて。


その時。


「今日は出発するんですか?」


ミアが小さく尋ねる。


女性は少し迷ったあと、

静かに頷いた。


「……はい」

「街へ戻らないといけないので」


その声には、

もう昨日までの無理した硬さはなかった。


するとリアが少し寂しそうに笑う。


「そっかぁ……」


「ですが」


女性は静かに続けた。


「また来たいです」


暖炉の火が揺れる。


その瞬間。


リアの顔がぱっと明るくなった。


「はい!」


ガルドたちも笑う。


「常連候補だな」

「また暖炉前埋まるぞ」

「……席増やす?」


「増やしません!」


リアが慌ててツッコむ。


店内に笑い声が広がった。


女性は、

その空気を静かに見つめる。


暖炉。


木の香り。


優しい灯り。


そして。


自然に“また来たい”と思える場所。


「…………」


少し前まで。


自分は、

休むことを忘れていた。


でも今は違う。


また頑張れる。


また前を向ける。


そんなふうに思えた。


その時。


「気をつけて」


レインが静かに言う。


女性は小さく頷き――そして穏やかに笑った。


「……行ってきます」


その言葉は、

まるで“帰る場所”がある人の声だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。