表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
5/17

第4話『看板娘の笑顔』

朝の星降る宿屋は忙しい。


「ミルク追加お願いしまーす!」

「パン焼けました!」

「朝食三人前いきます!」


――と言っても。


忙しそうに走り回っているのは、ほとんどリアだけだった。


「わわっ!?」


ガタンッ!


皿が傾く。


だが床へ落ちる寸前、後ろから伸びた手がそれを支えた。


「危ないですよ」


「あっ……」


リアが振り返る。


そこには、いつもの穏やかな顔をしたレインがいた。


「す、すみません……!」


「そんなに慌てなくても大丈夫です」


レインは自然な動作で皿を受け取り、そのまま客席へ運んでいく。


しかも。


「追加のスープです」

「ありがとうございます!」

「パンのおかわりも置いておきますね」


接客まで普通にこなしていた。


「なんでそんな自然なんですか……」


リアは呆然と呟く。


レインは首を傾げた。


「宿なので」


「いやそうなんですけど!」


その時。


カウンター席の冒険者たちが、ニヤニヤしながらこちらを見ていた。


「なあリアちゃん」

「……はい?」


「その兄ちゃん、もう完全に宿の旦那だろ」


「ぶっ――!?」


リアが真っ赤になる。


「ち、違いますから!?」


一方レインは。


「旦那ではないですね」


真顔だった。


「いやそこ否定する!?」


リアは思わず叫んだ。


冒険者たちは大笑いしている。


「でもよぉ、最近この宿かなり良いぞ?」

「飯うまいし、寝やすいし」

「武器まで直るしな!」


「あと空気が落ち着く」

「妙に安心するんだよなぁ」


リアは驚いたように周囲を見る。


最近、本当にそういう声が増えていた。


昨日までガラガラだった宿に、少しずつ人が増えている。


空席だったテーブルも埋まり始めた。


「…………」


リアは小さくレインを見る。


彼はただ、静かに皿を洗っていた。


まるでそれが当たり前みたいに。


その時だった。


「リアちゃーん!」


入口から声が響く。


「セリアさん!?」


赤髪ポニーテールの女性が、大きく手を振りながら入ってきた。


軽装鎧。

冒険者用ブーツ。

明るい笑顔。


元気そのもの、という雰囲気だ。


「久しぶり! 最近客増えてるって聞いて来た!」


「そ、それがですね……!」


リアは勢いよくレインを指差した。


「この人なんです!」


「……俺ですか?」


セリアはじーっとレインを見る。


「へぇ?」


その視線は完全に、

“頼りなさそうな男を見る目”だった。


「宿員?」


「泊まってるだけです」


「ふーん……」


セリアは少し怪しそうに目を細める。


だが次の瞬間。


「はい、注文どうぞ」


レインが自然に水を置いた。


「……っ」


セリアの目が少しだけ変わる。


グラスは曇り一つない。

水温もちょうどいい。


何より、

動きに無駄がない。


冒険者だった彼女だからこそわかる。


「……なんかこの人、妙に“できる”」


レインは穏やかに笑う。


「料理ならすぐ作れますよ」


「へぇ? じゃあおすすめ」


「わかりました」


その数分後。


セリアの前に並べられた料理を見て、彼女は固まった。


「……いや待って」


湯気立つ肉料理。

香草スープ。

焼きたてパン。


香りだけでわかる。


美味い。


一口食べた瞬間。


「っっっ!?!?」


セリアが勢いよく立ち上がった。


「なにこれうっま!?」


店内に声が響く。


リアはなぜか誇らしげだった。


「ですよね!?」


「リアちゃんが作ったの!?」


「違います!!」


レインは静かにお茶を飲んでいる。


セリアはじーっと彼を見る。


「……ねえアンタ」


「はい?」


「本当にただの宿員?」


レインは少しだけ考え込み――静かに答えた。


「今は、そうですね」


その言葉に。


セリアはなぜか、少しだけ笑った。


「……なんか面白そうじゃん、この宿」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ