第42話『休んでもいい場所』
朝。
窓の外では、
まだ静かな雨が降っていた。
星降る宿屋には、
焼き立てパンの香りが広がっている。
「……いい匂い」
二階から降りてきた白ローブの女性が、
小さく呟いた。
昨日より顔色が良い。
リアはぱっと笑顔になる。
「おはようございます!」
「……おはようございます」
女性は少し戸惑ったように頭を下げた。
その時。
「熱、下がってますね」
レインが静かに紅茶を置く。
「今日は少し楽そうです」
「…………」
女性は少し驚いた顔をした。
昨日もそうだった。
この人は、
妙に人の変化へ気づく。
「ありがとうございます」
女性は静かに席へ座る。
暖炉の火。
木の香り。
穏やかな空気。
不思議だった。
こんなに安心できる宿が、
辺境にあるなんて。
その時。
「お、昨日の人元気そうじゃん!」
ガルドたち常連組が入ってくる。
完全に朝の流れだった。
「……おはようございます」
女性は少し戸惑いながら頭を下げる。
するとユーリが笑った。
「そんな固くならなくていいって」
「ここゆるいから」
「……ゆるい」
女性は少しだけ目を丸くした。
実際その通りだった。
誰も急がない。
誰も責めない。
ただ、
自然にここへ帰ってきている。
その時。
「パン焼けました……!」
ミアが少し嬉しそうに厨房から出てくる。
焼き立ての香りが広がった。
「お、今日の新作?」
「最近ミアちゃんのパン人気だよな」
ガルドたちが盛り上がる。
ミアは少し照れながら、
女性へパンを差し出した。
「……よかったら」
「え?」
「焼き立て、なので」
女性は少し戸惑いながら、
パンを受け取る。
そして。
一口食べた瞬間。
「……っ」
自然に目を見開いた。
柔らかい。
温かい。
優しい味だった。
「……おいしい」
ぽつりと漏れた声。
その瞬間。
ミアが少しだけ嬉しそうに笑った。
暖炉の火が揺れる。
その光景を見ながら、
リアは静かに思う。
少し前まで。
この宿は、
ただ“泊まる場所”だった。
でも今は違う。
疲れた人が来て。
安心して。
少しずつ笑えるようになる。
「…………」
その時。
白ローブの女性が、
小さく口を開いた。
「……ここって」
皆の視線が集まる。
女性は少し迷い――やがて静かに笑った。
「休んでもいいって、思える場所なんですね」
暖炉の火が揺れる。
その言葉に。
リアはとても嬉しそうに笑った。
「……はい!」




