第40話『ここに帰ってきたい』
夜。
星降る宿屋には、
今日も暖かな灯りがともっていた。
暖炉前では、
ガルドたち常連組がいつものように騒いでいる。
「リアちゃん追加ー!」
「はいはい今行きます!」
「ミア、パンもうない?」
「い、今焼いてます……!」
賑やかな声。
笑い声。
木の香り。
少し前まで、
静かだった宿。
でも今は違う。
「…………」
リアは料理を運びながら、
ふと店内を見回した。
暖炉前。
常連席。
窓際の花。
そして。
自然に帰ってきてくれる人たち。
その時だった。
カラン、と扉が鳴る。
「……こんばんは」
入ってきたのは、
以前泊まっていた若い冒険者だった。
暖炉前の常連たちがすぐ反応する。
「お、帰ってきた」
「また来たなー」
「……おかえり」
若い冒険者は、
少し照れくさそうに笑った。
「……ただいま、でいいのか?」
その瞬間。
リアの胸が、
じんわり熱くなる。
「はい!」
リアは、
とても嬉しそうに笑った。
「おかえりなさい!」
暖炉の火が揺れる。
若い冒険者は、
前と同じ暖炉前の席へ座った。
それがもう、
自然みたいだった。
「今日は失敗してない顔だな」
ガルドが笑う。
「……まあ、少しは」
若い冒険者も苦笑する。
以前ここへ来た時は、
依頼失敗でかなり落ち込んでいた。
でも今は違う。
「……また頑張ってみようって思えた」
ぽつりと漏れた本音。
店内が少し静かになる。
すると。
「それなら良かったです」
レインが静かに料理を置いた。
湯気立つシチュー。
焼き立てパン。
安心する香り。
若い冒険者は、
少しだけ目を細めた。
「……不思議なんだよな」
「何がですか?」
リアが首を傾げる。
「ここ来ると、“帰ってこれる”って思える」
暖炉の火が揺れる。
その言葉に。
リアは静かに店内を見回した。
笑い声。
穏やかな空気。
自然に交わされる、
“おかえり”と“ただいま”。
少し前までは、
想像できなかった。
でも今は。
この宿には、
ちゃんと帰ってくる人たちがいる。
「…………」
リアは小さく笑った。
そして。
自然に思う。
――もっと、
この場所を大事にしたい。
その時。
「リアさん」
ミアが小さく服を引っ張る。
「どうしました?」
「……最近、リアさんすごく楽しそうです」
「えっ」
リアの顔が赤くなる。
すると暖炉前から、
セリアのニヤニヤした声が飛んできた。
「いやほんと最近ずっとだよねー」
「違いますー!!」
店内に笑い声が広がる。
星降る宿屋。
それは今日も、
誰かが“帰ってきたい”と思える場所だった。




