第38話『常連席の隣』
夕方。
星降る宿屋には、
今日も穏やかな時間が流れていた。
暖炉前では、
ガルドたち常連組がいつもの席へ座っている。
「……完全に固定席ですね」
ミリアが苦笑する。
「今さらだろ?」
「ここ落ち着くんだよな」
ガルドが椅子へ深く座り込む。
すると。
カラン、と扉が鳴った。
「……空いてるか?」
入ってきたのは、
若い冒険者だった。
少し疲れた顔をしている。
リアが笑顔で迎えた。
「もちろんです!」
だが。
若い冒険者は、
暖炉前の席を見て少し困った顔になる。
「……埋まってるか」
暖炉前は人気席だ。
特に最近は、
常連組が先に座っていることが多い。
すると。
「隣空いてるぞ」
ガルドが自然に椅子を引いた。
「え?」
「座れって」
ユーリも笑う。
「初見さん歓迎ー」
ディオも静かに頷いた。
若い冒険者は少し戸惑いながら、
暖炉前へ座る。
その瞬間。
「……あったか」
ぽつりと呟いた。
暖炉の熱。
木の香り。
そして。
妙に落ち着く空気。
「初めてか?」
「はい……」
若い冒険者は少し緊張しているようだった。
「最近この辺来たばっかで」
「宿探してたんですけど……」
するとユーリが笑う。
「じゃあ当たり引いたな」
「ここマジで寝れるぞ」
「飯うまい」
「……帰りたくなる」
ディオがそこまで喋るのは珍しかった。
リアは思わず笑う。
「最近皆さん宣伝してません?」
「事実だしな」
ガルドは真顔だった。
その時。
「お待たせしました」
レインが料理を運んでくる。
湯気立つシチュー。
焼き立てパン。
若い冒険者は、
恐る恐るスープを口へ運び――そして目を丸くした。
「……うま」
自然に漏れた声。
すると暖炉前の常連たちが笑う。
「最初みんなそうなる」
「わかる」
店内に穏やかな空気が広がる。
若い冒険者は少しだけ周囲を見回した。
楽しそうに笑う常連たち。
忙しそうに動くリア。
少しずつ接客に慣れてきたミア。
そして。
自然に料理を作る灰銀色の青年。
「…………」
不思議だった。
初めて来たはずなのに、
妙に安心する。
その時。
「また疲れたら来ればいい」
ガルドが何気なく言った。
「ここ、そういう宿だから」
暖炉の火が揺れる。
その言葉に。
若い冒険者は、
少しだけ嬉しそうに笑った。
星降る宿屋。
そこは今日も、
“帰ってくる場所”を増やしていた。




