↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
38/85

第35話『ただいまの増える宿』

夕方。


星降る宿屋には、

今日も暖かな灯りがともっていた。


外は少し冷えている。


そのせいか、

宿の中の暖かさがいつも以上に心地良い。


カラン、と扉が鳴る。


「ただいまー!」


元気な声と共に入ってきたのは、

ユーリだった。


その瞬間。


リアが思わず固まる。


「…………」


そして数秒後。


「……今、“ただいま”って言いました?」


「あ」


ユーリ本人も気づいたらしい。


「いや、なんか自然に」


暖炉前では、

ガルドが大笑いしていた。


「ははっ! ついに言ったか!」

「お前も完全に常連だな!」


「いや前からだろ」


ミリアが紅茶を飲みながらツッコむ。


店内に笑い声が広がる。


すると。


カラン、と再び扉が鳴った。


「……こんばんは」


仕事帰りのミリアだった。


疲れているはずなのに、

星降る宿屋へ入った瞬間だけ少し表情が柔らかくなる。


「ミリアさん!」


リアが笑顔で迎える。


そして。


「おかえりなさい」


レインが自然にそう言った。


「…………」


ミリアの動きが、

少しだけ止まる。


暖炉の火。


焼き立てパンの香り。


穏やかな空気。


そして。


当たり前みたいに返ってくる、

“おかえり”という言葉。


「……ほんと不思議ですね」


ミリアは小さく笑った。


「何がですか?」


「最初は、ただ休める場所だと思ってたんです」


でも今は違う。


疲れた時。


嫌なことがあった時。


無意識に、

ここへ来てしまう。


「…………」


ミリアは静かに店内を見回す。


暖炉前では、

ガルドたちが騒いでいる。


ミアは少しずつ、

自然に笑えるようになっていた。


リアも、

前よりずっと柔らかい表情をしている。


そして。


厨房には、

穏やかに料理を作る灰銀色の青年。


「……帰ってきたくなるんですよね」


ぽつりと漏れた本音。


その瞬間。


リアが少し照れながら笑った。


「……はい」


その時だった。


「リアちゃん追加ー!」

「シチューおかわり!」

「……パン」


「はーい!」


リアは慌てて走っていく。


その後ろ姿を見ながら、

ミリアは小さく笑った。


少し前まで。


この宿は、

静かで寂しい場所だった。


でも今は違う。


笑い声があって。


“ただいま”があって。


誰かが帰ってくる。


星降る宿屋。


それは今日も、

誰かの“帰る場所”になっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。