第32話『最近、帰るのが楽しみなんです』
夕方。
冒険者ギルドは、
今日も騒がしかった。
依頼帰りの冒険者たち。
報告書。
武器の音。
受付には長い列。
「はぁ……」
ミリア・ノクスは、
小さく息を吐いた。
今日も忙しい。
朝からほとんど休めていない。
「ミリアさん、これ追加です」
「……ありがとうございます」
後輩受付嬢から渡された書類を見て、
さらに肩が重くなる。
すると。
「最近元気ですね?」
不意に、
後輩がそんなことを言った。
「……え?」
「前より疲れた顔しなくなったというか」
ミリアは少し驚く。
そんなふうに見えていたのか。
「……そうですか?」
「はい。なんか最近、余裕ある感じです」
その言葉に。
ミリアは少しだけ考え込み――やがて小さく笑った。
「…………」
理由は、
なんとなくわかっていた。
仕事が終わった後。
帰れる場所ができたからだ。
暖炉の火。
温かい料理。
穏やかな空気。
そして。
「おかえりなさい」
自然にそう言ってくれる場所。
その日の夜。
カラン、と扉が鳴る。
「いらっしゃ――あ、ミリアさん!」
リアがぱっと笑顔になる。
その瞬間。
ミリアの肩から、
ふっと力が抜けた。
「……ただいま、みたいですね」
苦笑しながら席へ座る。
すると。
「今日はかなり疲れてますね」
レインが静かに紅茶を置いた。
「もう隠す気ないですよね、その察し能力」
「顔に出てます」
「そんなにですか……?」
ミリアは少しだけ苦笑した。
すると暖炉前から声が飛ぶ。
「ミリアさん今日遅かったな!」
「仕事地獄?」
「……顔死んでる」
「皆さん言い方ひどくないですか?」
店内に笑い声が広がる。
その空気だけで、
少し心が軽くなる。
少し前まで。
仕事終わりは、
ただ疲れるだけだった。
でも今は違う。
「…………」
ミリアは静かに店内を見回す。
暖炉の火。
木の香り。
楽しそうに笑う常連たち。
忙しそうに動くリア。
少しずつ自信をつけ始めたミア。
そして。
自然にそこにいる、
灰銀色の青年。
「……最近」
ミリアはぽつりと呟く。
「帰るのが楽しみなんです」
その瞬間。
店内が少し静かになる。
リアは目を丸くし――やがてとても嬉しそうに笑った。
「……はい!」
暖炉の火が揺れる。
星降る宿屋。
そこは今日も、
誰かが“帰ってきたい”と思える場所だった。




