↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
34/85

第31話『おかえりなさい』

朝。


星降る宿屋には、焼き立てパンの香りが広がっていた。


窓から差し込む光。

暖炉の穏やかな熱。

静かに流れる朝の時間。


「……なんか不思議ですね」


リアは店内を見回しながら、小さく呟いた。


「何がですか?」


レインが紅茶を置きながら聞き返す。


「前まで静かだったのに」

「今は、静かなのに寂しくないというか」


暖炉前には、

既にディオが座っていた。


完全に朝の定位置である。


「……おはよう」


「おはようございます」


リアが笑う。


少し前まで、

こんな光景はなかった。


誰かが自然に帰ってくる。


それが今では当たり前になっている。


その時だった。


カラン、と扉が鳴る。


「おはよーございまーす……」


ミリアだった。


かなり眠そうである。


「ミリアさん!?」


リアが目を丸くする。


「今日早くないですか?」


「ギルド行く前に少しだけ……」


そのまま椅子へ座り込みそうになる。


すると。


「今日は甘めの紅茶にしてます」


レインが自然にカップを置いた。


「……もう怖いですその察し能力」


「顔に出てるので」


ミリアは紅茶を一口飲み――そして深く息を吐く。


「……生き返ります」


その瞬間。


カラン、と再び扉が鳴った。


「おっ、もう開いてるか!」


「今日寒ぃなー!」


ガルドたち常連組だった。


当然のように暖炉前へ向かう。


「……そこ完全に常連席ですね」


リアが苦笑する。


「今さらだろ?」


「もう家みたいなもんだしな」


その言葉に。


リアの胸が、少しだけ温かくなる。


家。


帰ってくる場所。


星降る宿屋は、

本当にそんな場所になり始めていた。


その時。


入口で立ち止まっている旅人へ、

ミアが小さく声をかける。


「えっと……お席、空いてます」


以前なら、

こんなふうに自分から話しかけられなかった。


だが今は違う。


少しずつ。


少しずつ、

この宿の一員になれている。


旅人は少し驚いたように笑った。


「……ありがとう」


そのやり取りを見ながら、

リアは小さく目を細める。


暖炉の火。


焼き立てパン。


笑い声。


そして。


自然に交わされる、

“おはよう”や“また来た”。


そんな日常が、

今はとても愛おしかった。


その時だった。


「リア」


レインが静かに声をかける。


「はい?」


「最近、本当に楽しそうですね」


その瞬間。


リアの顔が真っ赤になる。


「なっ……!?」


暖炉前では、

セリアがニヤニヤしていた。


「ほらまただ」


「違いますー!!」


店内に笑い声が広がる。


星降る宿屋。


そこは今日も、

誰かが“おかえり”と言われる場所だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。