特別話②『星降る宿屋の一日』
朝。
星降る宿屋は、
焼き立てパンの香りで始まる。
「リア、パン焼けました」
「はーい!」
まだ少し眠そうなリアが、
階段を降りてくる。
暖炉には小さな火。
窓から差し込む朝の光。
静かな時間だった。
「……いい匂いです」
ミアが少し嬉しそうに笑う。
最近、
パン作りが少しずつ上達してきた。
するとセリアが大きく伸びをした。
「朝飯まだー?」
「起きて最初がそれですか!?」
リアがツッコむ。
そんなやり取りをしながら、
レインは自然に朝食を仕上げていく。
昼。
冒険者たちが帰ってくる時間になると、
宿は一気に賑やかになる。
「リアちゃーん! 飯!」
「ミア、水お願い!」
「……シチュー」
暖炉前には、
いつもの常連席。
ガルド。
ユーリ。
ディオ。
最近では、
誰もそこを取ろうとしない。
完全に定位置だった。
午後。
カラン、と扉が鳴る。
「……こんにちは」
ミリアだった。
仕事前らしく、
少し疲れた顔をしている。
「ミリアさん!」
リアがぱっと笑顔になる。
すると。
「今日は甘めの紅茶にしてます」
レインが自然にカップを置いた。
「……なんでまだ何も言ってないのにわかるんですか?」
「疲れてそうだったので」
「ほんと不思議な人ですね……」
ミリアは苦笑しながら紅茶を飲む。
そして小さく息を吐いた。
夕方。
宿は一番賑やかになる。
笑い声。
料理の匂い。
暖炉の火。
誰かの「おかえり」。
少し前まで、
静かだった宿。
でも今は違う。
誰かが帰ってきて。
安心して。
笑っている。
夜。
最後の客を見送った後。
「お疲れ様でしたぁ……」
リアがカウンターへ突っ伏した。
ミアは静かに食器を片付け、
セリアは暖炉前でくつろいでいる。
すると。
「どうぞ」
レインが自然に全員分の紅茶を置いた。
「……なんかいいですね」
ミアが小さく呟く。
暖炉の火が揺れる。
穏やかな空気。
安心できる時間。
リアは静かに笑った。
「うん。私もそう思う」
星降る宿屋。
それは今日も、
誰かが帰ってくる優しい場所だった。




