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第2話『全部A級の“普通”』

朝。


星降る宿屋の厨房には、静かな包丁の音が響いていた。


トントントン――


一定のリズム。

無駄のない手際。


「……え?」


リア・フェルナは、目の前の光景に固まっていた。


「お、お客様……ですよね?」


「レインです」


「そこじゃなくて!?」


レインは首を傾げながら、慣れた様子で鍋をかき混ぜる。


香ばしい匂いが広がった。


昨夜。


「泊まる代わりに少し手伝いますよ」


そう言っていたが、まさかここまでとは思わなかった。


リアが起きた時には、


* 薪割り完了

* 厨房掃除完了

* 仕込み完了


という意味不明な状態になっていたのだ。


「な、なんでそんな慣れてるんですか……」


「料理はA級なので」


「A級!?」


さらっと返ってきた言葉に、リアは目を丸くする。


「え、冒険者とかですか?」


「元補助部隊です」


「ああ……!」


リアは納得しかけて――すぐに首を傾げた。


「いや補助部隊でもA級料理って何なんですか!?」


「普通ですよ?」


「普通じゃないです!」


その時。


コンコン、と入口の扉が鳴った。


「おーい、リアちゃん。朝飯あるかー?」


入ってきたのは、鎧姿の冒険者だった。


三十代くらいだろうか。


疲れた顔で椅子へ座る。


「ありますよ! 今すぐ出します!」


リアが慌てて返事をする。


だが。


「できてますよ」


「へ?」


レインが皿を差し出した。


湯気の立つスープ。

焼き立てのパン。

香草を使った肉料理。


朝食とは思えないほど完成度が高い。


冒険者はぽかんと固まり――次の瞬間。


「……うっま!?」


店中に声が響いた。


リアが肩を跳ねさせる。


「えっ!?」

「な、なんだこれ!?」

「身体軽っ!?」


男は信じられない顔でスープを見つめる。


「いや待て、昨日までこんな美味くなかったぞ!?」


「す、すみません!?」


なぜかリアが謝った。


レインは少し考えるように首を傾げる。


「疲労回復用に薬草を少し調整したんですが……」


「調整!?」


リアは叫んだ。


「え!? 料理に薬草使えるんですか!?」


「使えますよ?」


「普通使えません!!」


冒険者は夢中で料理を食べ続けている。


その様子を見ながら、リアは小声で呟いた。


「……この人、絶対普通じゃない」


だが。


その時だった。


ギィ、と椅子が軋む音。


冒険者が立ち上がった拍子に、腰の剣が床へ落ちる。


ガシャン!


「あっ」


剣身が大きく欠けた。


「あー……マジか」


冒険者は頭を抱える。


「これ高かったんだよなぁ……」


レインは剣を拾い上げ、静かに状態を見る。


「少し預かってもいいですか?」


「え?」


「直せると思うので」


沈黙。


そして。


「…………はい?」


リアと冒険者の声が綺麗に重なった。


レインは欠けた刃を眺めながら、小さく呟く。


「鍛治もA級なので」


「A級多くないですか!?」


リアのツッコミが、朝の宿に響き渡った。

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