第28話『守りたい空気』
翌日。
星降る宿屋には、いつも通り穏やかな朝が流れていた。
「おはようございますー!」
リアが元気よく扉を開ける。
朝の光。
焼き立てパンの香り。
暖炉の暖かさ。
昨日の騒ぎが嘘みたいだった。
「……なんか普通ですね」
ミリアが紅茶を飲みながら呟く。
「もっとピリピリするかと思いました」
「そんな感じでもないよなぁ」
ガルドが苦笑する。
暖炉前では、
既に常連組がくつろいでいた。
完全にいつもの空気だった。
その時。
「……ありがとうございます」
リアが小さく頭を下げた。
「昨日、助けてくれて」
その言葉に、
ガルドたちは少しだけ目を丸くする。
するとユーリが笑った。
「気にすんなって」
「むしろ当然」
「ここ壊されたくないし」
ディオも静かに頷く。
リアの胸が、
じんわり温かくなる。
少し前までは、
この宿を守るのは自分一人だと思っていた。
でも今は違う。
「…………」
暖炉の火が揺れる。
そこには、
自然に帰ってきてくれる人たちがいた。
すると。
「リアさん」
ミアが小さく服を引っ張る。
「どうしました?」
「……昨日、ちょっと怖かったです」
青緑の瞳が少し揺れていた。
リアは優しく笑う。
「うん。私も」
その時。
「でも大丈夫ですよ」
レインが静かに言った。
「ここには、ちゃんと帰ってきてくれる人がいるので」
店内が少し静かになる。
ガルドが照れくさそうに頭を掻いた。
「なんか恥ずいこと言うなぁ」
「事実なので」
レインは平然としていた。
その空気に、
店内へ笑い声が広がる。
そして。
カラン、と扉が鳴った。
「おっ、今日もやってるな!」
新しい客だった。
だがその冒険者は、
暖炉前の空気を見るなり小さく笑う。
「……なんかいい宿だな」
その言葉に。
リアは少しだけ目を細めた。
豪華じゃない。
大きくもない。
でも。
誰かが帰ってきてくれて、
守りたいと思ってくれる場所。
星降る宿屋は、
そんな宿になり始めていた。
そして。
その空気を作っているのは、
きっと――
「リア、パン焼けました」
「はーい!」
穏やかに笑う、
灰銀色の青年なのだと。
暖炉の火が揺れる。
星降る宿屋には、
今日も優しい時間が流れていた。




