第27話『この宿は俺たちの場所だ』
夜。
星降る宿屋は、いつも通り賑わっていた。
暖炉前では冒険者たちが食事をしている。
ミリアは仕事終わりの紅茶を飲み、
リアは忙しそうに走り回っていた。
「リアちゃん、パン追加ー!」
「はーい!」
「ミア、水お願い」
「は、はいっ!」
いつもの光景。
穏やかな時間。
――その時だった。
バンッ!!
突然、扉が乱暴に開かれる。
店内の空気が、一瞬で張り詰めた。
「……あ?」
入ってきたのは、
酒臭い男たちだった。
冒険者だろう。
だがかなり酔っている。
「なんだここ、最近評判の宿か?」
「へぇー、女ばっかじゃん」
リアの表情が少し固くなる。
ミアもびくっと肩を震わせた。
すると男の一人が、
空いている椅子へ乱暴に足を乗せる。
ギギッ、と嫌な音が鳴った。
「ちょっ……!」
リアが慌てて近づく。
「椅子壊れちゃうので――」
「別にいいだろ?」
男は笑いながら酒瓶を揺らした。
空気が悪い。
ミリアも眉をひそめる。
だが。
その時だった。
「……それ、やめてもらえますか」
静かな声。
レインだった。
怒鳴っていない。
けれど。
店内の空気が、少しだけ変わる。
酔っ払い冒険者は舌打ちした。
「あぁ? なんだよ宿主」
「椅子、直したばかりなので」
「知らねぇよ」
男がさらに乱暴に足を乗せる。
その瞬間。
ガシッ。
男の足首を、誰かが掴んだ。
「……あ?」
そこにいたのは、
ガルドだった。
暖炉前から立ち上がっている。
「壊すなよ」
低い声だった。
続けて。
「……うるさい」
ディオ。
「飯まずくなるからやめて?」
ユーリ。
気づけば。
常連冒険者たちが、
自然に立ち上がっていた。
店内が静まり返る。
酔っ払い冒険者たちは、
初めて空気の違いに気づいたようだった。
ここは、
自分たちが好き勝手していい場所じゃない。
「…………」
ガルドが静かに口を開く。
「ここ、俺たちの帰る場所なんだわ」
その言葉に。
リアの胸が、大きく揺れた。
帰る場所。
暖炉の火が揺れる。
笑い声。
料理の匂い。
安心できる空気。
それを壊されたくない。
――皆そう思っている。
酔っ払い冒険者たちは、
居心地悪そうに舌打ちした。
「……行くぞ」
乱暴に扉を開け、
そのまま出ていく。
バタン、と扉が閉まる。
静寂。
そして。
「……はぁぁぁ」
リアが一気に力を抜いた。
「び、びっくりした……」
すると。
「大丈夫か?」
ガルドが苦笑する。
「はい……!」
リアは少しだけ目を潤ませながら笑った。
その時。
「椅子、無事でした」
レインが静かに確認していた。
「そこなんですか!?」
店内に笑い声が広がる。
緊張が一気に解ける。
暖炉前へ戻る常連たち。
自然に再開する会話。
そして。
リアは静かに思う。
――この宿、
本当に皆の場所になったんだ。
その光景が、
少しだけ嬉しかった。




