第26話『冒険者たちの帰る場所』
夜。
星降る宿屋は、今日も賑わっていた。
暖炉前では冒険者たちが笑い、
カウンターではミリアが紅茶を飲んでいる。
「……なんか最近、ここ人増えました?」
若い冒険者が店内を見回しながら呟いた。
確かにそうだった。
以前より席が埋まるのが早い。
常連も増えた。
「最近ギルドでも噂だからなぁ」
「“帰りたくなる宿”って」
ガルドが笑いながらスープを飲む。
「あと飯」
「あと暖炉」
「あとベッド」
「全部じゃないですか」
リアが苦笑した。
その時。
カラン、と扉が鳴る。
入ってきたのは、
泥だらけの三人組だった。
かなり疲れている。
装備も傷だらけだ。
「……空いてるか?」
「もちろんです!」
リアが慌てて駆け寄る。
だが三人は、
どこか張り詰めた顔をしていた。
「……依頼失敗したんだ」
ぽつり、と一人が呟く。
店内が少し静かになる。
若い冒険者だった。
まだ経験も浅いのだろう。
「仲間も怪我してるし……」
「最悪だった」
声が重い。
すると。
「まずは温まりましょう」
レインが静かにスープを置いた。
湯気立つ器。
優しい香り。
三人は少し戸惑いながらも、
ゆっくりスープを飲む。
そして。
「……っ」
一人の肩から、
ふっと力が抜けた。
「……あったか」
その瞬間。
張り詰めていた空気が、
少しだけ緩む。
レインは静かに続けた。
「失敗した日は、ちゃんと休んだ方が良いです」
「…………」
「無理すると、次で壊れるので」
暖炉の火が揺れる。
その言葉は、
妙に優しかった。
若い冒険者は少し俯き――やがて小さく呟く。
「……怒らないんだな」
「え?」
リアが目を丸くする。
「他の宿だと、暗い顔してると嫌がられるし」
「ギルドでも失敗した日は空気重いから」
だから。
帰る場所がなかった。
その言葉に。
店内の空気が、
少しだけ静かになる。
すると。
「だったら今日は、ゆっくりしてください」
リアが笑った。
「星降る宿屋は、休むための宿なので!」
その瞬間。
若い冒険者たちは、
少しだけ驚いた顔をした。
だが。
「……変な宿」
小さく笑う。
その顔は、
さっきよりずっと柔らかかった。
暖炉前では、
ガルドたちが自然に席を詰めている。
「ほら座れよ」
「失敗した日は飯食えばいい」
「……シチューうまいぞ」
ディオまで喋っていた。
若い冒険者たちは戸惑いながら席へ座る。
その様子を見ながら、
ミリアが小さく笑う。
「……本当に“帰る場所”ですね」
レインは静かに頷いた。
「そうなれたなら、嬉しいです」
その夜。
星降る宿屋には、
いつもより優しい灯りがともっていた。




