第25話『いつもの席』
夕方。
星降る宿屋には、今日も暖かな灯りがともっていた。
カラン、と扉の鈴が鳴る。
「おー、空いてるかー!」
「いらっしゃいませ!」
リアが笑顔で迎える。
入ってきたのは、ガルドたち常連冒険者組だった。
そして彼らは迷いなく歩いていく。
暖炉前。
窓際。
カウンター横。
完全に、
“いつもの席”だった。
「……慣れすぎでは?」
リアが苦笑する。
するとユーリが当然みたいに言った。
「だって落ち着くし」
「他の宿だと騒がしいんだよな」
「ここ静かで好き」
ディオは既に暖炉前でくつろいでいた。
その姿に、
ミリアが小さく笑う。
「……本当に帰ってきてるみたいですね」
「ミリアさんもですよ?」
リアがニヤニヤする。
「うっ……」
言い返せない。
実際、
気づけば自然にここへ来ていた。
仕事終わり。
疲れた時。
少し休みたい時。
そんな時、
足が向くのは星降る宿屋だった。
その時。
「ミリアさん」
レインが静かに紅茶を置く。
「今日は少し濃いめにしてます」
「……また察しました?」
「今日は書類仕事多かったですよね」
「なんでわかるんですか……」
ミリアは半分呆れたように笑った。
だが。
温かな紅茶を飲んだ瞬間、
自然と肩の力が抜ける。
「……落ち着く」
ぽつりと漏れた本音。
するとリアが嬉しそうに笑った。
「ですよね!」
その時だった。
カラン、と再び扉が鳴る。
「……あれ?」
入ってきた若い冒険者が、
不思議そうに店内を見回した。
「ここ、なんか空気違くないか?」
「だろ?」
ガルドが笑う。
「一回来るとわかるぞ」
若い冒険者は恐る恐る席へ座った。
そして。
数分後。
「……なにこれ」
スープを飲んだ瞬間、
呆然と呟く。
「うま……」
さらに。
椅子へ深く座り込んだまま、
ぽつりと漏らした。
「……なんか安心する」
その瞬間。
リアは少しだけ目を細めた。
最近、
本当に増えた。
こういう言葉が。
“また来たい”
“落ち着く”
“帰ってきたくなる”
星降る宿屋は、
少しずつ変わっている。
でも。
変わったのに、
ちゃんと昔のままだった。
暖炉の火。
木の香り。
優しい空気。
そして。
「リア、パン焼けました」
「はーい!」
自然にそこにいる、
灰銀色の青年。
リアは小さく笑った。
――ああ。
この宿、
本当に好きだなぁ。
暖炉の火が揺れる。
外は少し冷えてきていた。
けれど星降る宿屋の中だけは、
今日も穏やかで温かかった。




